世の中には、映画の世界のような不思議な話があるものです。
今年4月3日、米国ワシントンDCに本部を置く国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が世界各国で一斉に「パナマ文書」についての報道を開始しました。世界各国の現職あるいは引退した政治指導者達やその親族、映画スター、スポーツ選手、富裕層、そして犯罪者が海外の租税回避地(タックスヘイブン)に無数のペーパーカンパニーを設立している実態を暴き出しました。
パナマ文書は、中米パナマにあるモサック=フォンセカという法律事務所から流出した内部文書で、ICIJに参加する80カ国、400名以上のジャーナリストたちが数カ月かけて分析し、そのショッキングな内容を報じました。
最初にデータを受け取ったのは、南ドイツ新聞の記者でした。彼は家族との休暇の最中、「データに興味はあるか」という電子メールを受け取ります。それが史上最大の情報漏洩の始まりでした。彼は、同じ新聞社で働く友人とともにこのデータの分析を始めます。
データの漏洩者は未だに明らかにされていません。
この漏洩者は、少しずつデータを彼に送ってきました。その方法は、おそらくは暗号化・匿名化されたデジタル通信と思われます。『パナマ文書』を読むと、データは長期にわたって何度も送られてきたことが分かります。データは1970年代のものから最新のものまであったといいます。つまり、インサイダーによる漏洩が疑わしいと思われます。漏洩者は、彼とのやりとりの中で「身元が明らかになれば、私の命は危険にさらされる」とも述べています。それなのになぜするのかと聞かれると、「この資料について報道がなされ、この犯罪が公になって欲しいのだ」と答えています。漏洩者はデータの対価も求めていません。
モサック=フォンセカは、顧客の要望に応じてペーパーカンパニーを斡旋し、それに「名義上の取締役」を置きます。本当の会社の持ち主、つまり資産の持ち主は分からないように細工されます。名目上の取締役は、本当の持ち主の意のままに書類にサインするだけで、実質的な権限は何もありません。モサック=フォンセカが使っている名義上の取締役のひとりは、パナマだけで実に2万5,000社の現/元取締役としてデータに現れているといいます。しかし、この「名義貸しの女王」は英語もほとんど話せない人で、パナマの貧困地区に住み、ある時期の月給は400ドル(約40,000円)しかなかったそうです。
既に報道されているように、パナマ文書にはたくさんの政治家や有名人が出てきていますが、アジアでは中国が最も多いようです。『パナマ文書』では中国についてひとつの章が割かれています。少なくとも習近平国家主席の親族が海外にペーパーカンパニーを所持し、資産を隠しているのではないかと疑われています。
何かと情報漏洩が懸念されるマイナンバーも、実はこうした世界的な動きと連動しています。日本からも多額の資金がオフショアに流れていると見られていますが、それを把握することで公平な税負担を可能にするためにマイナンバーは使われるようになるでしょう。
各国と資金取引に関する状況を共有し、匿名によるペーパーカンパニーを各国が規制していけば、パナマ文書に現れたような悪賢い取引はなくせると思われます。