第170話 民法と相続 (3) 

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相続税に詳しい税理士達が、一番やりたくない仕事に(お仕事なのでそんなことをいってはいけないのですが…)未分割財産の相続税申告作業というものがあります。

 遺産分割協議の成立には、相続人全員の合意が必要になりますので、相続税の申告期限までには円満に成立しないこともあります。

このように、遺産分割協議が成立していないため、相続財産が未分割の場合の相続税の申告は、その事によって申告期限が延長されるということはなく、通常の相続税の申告期限と同様に、被相続人の死亡の日から10ヶ月以内に申告と納税を行う必要があります。

 相続税法第55条では、「相続若しくは包括遺贈により取得した財産に係る相続税について申告書を提出する場合又は当該財産に係る相続税について更正若しくは決定をする場合において、当該相続又は包括遺贈により取得した財産の全部又は一部が共同相続人又は包括受遺者によってまだ分割されていないときは、その分割されていない財産については、各共同相続人又は包括受遺者が民法の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算するものとする。」と規定されています。

 つまり、法廷闘争に持ち込まれるような事案については、相続税法の規定より民法の規定が優先されることになります。

 このような相続税の申告期限までに遺産分割が出来ない場合、相続税法上の次のようなデメリットがあります。

 

1.配偶者に対する相続税額の軽減が受けられない。

配偶者は法定相続分か1億6,000万円のどちらか、大きい額まで相続税はかかりません。しかし、遺産の全部または一部が未分割の場合は、その分割されていない遺産部分については適用されません。

 

2.小規模宅地等の評価減が使えない

小規模宅地等の評価減の規定では、遺産のうち居住用や事業用のものは、各一定の面積について評価額が通常の20~50%になります。しかし、未分割の場合はその評価減を使うことができません。

 

3、物納が出来ない

未分割の遺産は、相続人全員の共有財産となるため、物納を申請する場合には、その共有者全員が申請する必要があります。

 

4.農地等の納税猶予が受けられない

納税猶予の適用を受けるためには、その納税猶予の対象となる農地等が申告期限までに分割されている事が必要です。

 

これらのメリットが受けられないということは、当然に相続税が割高になり、納付する税額が多額になります。ただし3年以内に遺産分割協議がまとまれば、上記(1)(2)の優遇処置は使えます。未分割状態で、申告期限までに申告書を提出する際に、「申告期限後3年以内の分割見込書」を一緒に提出します。この分割見込書を提出しておくと、申告期限から3年以内に分割された場合には、その分割された日から4カ月以内に更正の請求を行うことにより、上記(1)(2)の優遇処置が適用されるようになります。仮に払った納税額が過大であった場合には、還付されます。

未分割では配偶者控除は使えませんので、全財産が未分割であると、相続税を納税する必要がない配偶者もいったん税金を払うことになります。その後3年以内に分割が整えば配偶者控除は使えることになり、払った税金は戻ってきます。ただし、最初の相続税の申告の時に見込書を出しておかないといけません。

弁護士が、3年以内に協議の動向を教えていただければいいのですが、連絡が行き届いていない場合には、3年以内に申告書を作成する作業に支障をきたす場合も考えられます。

つまり、税理士にとっては、損害賠償請求対象になりやすい事案になりますので、あまりやりたくない仕事になるのです。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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