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 所有者の変更手続きがないまま50年以上経過した土地が国土の2割にも及ぶことが分かりました。こうした土地の大半は、不動産を相続した人が登記手続きをせず放置していることで発生したものです。相続登記は申請期限が決められていないため後回しになりやすく、またそもそも義務ではないことからずっと手続きせずにほったらかしになることも多くなります。ですが未登記の土地は売ることも担保に入れることもできず、有効活用するには登記しなければなりません。そして改めて登記するには全相続人の同意が必要となるために手間がかかるとともに、新たな「争族」を起こしかねません。自分の財産の中に相続登記していない土地があればトラブルになる前に登記しておく必要があります。

 法務省の調査によりますと、サンプルとして抽出した10万筆の土地のうち、最後の登記から50年以上が経過している土地が2割を超えることがわかりました。所有者不明土地問題研究会は、約410万haの土地が長年にわたり登記変更されていないと推計し、368万haである九州地方よりも広い土地が所有者不明になっている可能性を指摘しています。そこで法務省は、長年にわたって登記が変更されないまま放置されている土地の本格調査に着手しています。司法書士らに委託して、不動産登記や戸籍などの資料から本来の所有者を割り出し、登記簿に記載されている人が死亡していれば法定相続人をたどって登記を促します。

 国が所有者探しを始めたのは、その土地の所有権を持つ人が分からないと公共事業が滞ることになるからです。実際、東日本大震災の被災地で所有者不明の土地が散見し、自治体による用地買収の障害になりました。

 不動産に関する登記の名義変更は、相続などで所有者が変わった時に必ずしなければならないというわけではありません。登記申請には登録免許税や司法書士への報酬といった負担が必要になりますので、相続時に登記せず放置している人が散見します。しかし土地の本来の持ち主が登記しないまま放置しますと、行政だけではなく所有者自身に不都合を生じさせる恐れがあります。

 自分が登記簿上の名義人ではない不動産は、自分の財産であることを第三者に証明できず、そのままだと不動産の売却や担保設定はできません。

 相続した不動産は、相続登記しないと相続の権利があるすべての法定相続人の共有財産とみなされてしまいます。自分に所有権があることを主張するには、登記が欠かせません。登記には相続人全員から同意を得なければならず、それぞれの実印や戸籍謄本を集める必要があります。相続が発生して間もない期間であれば、親族が集うことが多いため同意を得る機会を作りやすいですが、長い年数が経ってからだと難しくなります。

 自分以外の相続人が認知症になり判断能力が低下してしまったときや、行方不明になったときは、法的な「同意」を得るためにさまざまな手続きが必要になり、時間とコストが掛かってしまいます。

 特に問題になるのが、自分以外の相続人が死亡した時です。例えば、父親の自宅を長女が相続することについて、長女が母親の面倒を見ることを条件に長男も納得をしたとします。長男が心変わりするおそれはないと長女は判断して自宅を引き継ぐことについての書面は交わしていません。実際、相続登記しなくてもしばらく不都合は生じません。しかし長男の死亡で状況は大きく変わります。  

長男の妻が自宅の権利を主張してきたためです。長男の妻が長男から相続できる財産には、父親が残した財産も含まれます。自宅の登記の名義人が父親のままだと、長男の妻も自宅を受け取れる余地が残り、長女が「自分が相続することについて長男は納得してくれていた」と説得しても取り合ってくれないおそれがあります。

 土地を相続する権利を持つ人が増えれば増えるほど話し合いがまとまらず、所有権を主張することが難しくなります。最後の登記から50年以上が経過している土地が全国に2割もあると言いますが、そうなると関係者は数十人に及ぶ可能性があり、大きなトラブルに発展するリスクを抱えています。登記の変更手続きがないまま50年以上経過している土地の割合は大都市部で6.6%、中小都市・中山間地域では26.6%となっており、地方は被相続人名義のまま放置されている土地が多い状況です。

 このような状況を踏まえ、法務省は平成30年度の税制改正により,相続による土地の所有権の移転の登記について,次の登録免許税の免税措置を設けています。

 個人が相続(相続人に対する遺贈も含みます。)により土地の所有権を取得した場合において,当該個人が当該相続による当該土地の所有権の移転の登記を受ける前に死亡したときは,平成30年4月1日から平成33年(2021年)3月31日までの間に当該個人を当該土地の所有権の登記名義人とするために受ける登記については,登録免許税を課さないこととされました。

 登記名義人となっている被相続人Aから相続人Bが相続により土地の所有権を取得した場合において,その相続登記をしないまま相続人Bが亡くなったときは,相続人Bをその土地の登記名義人とするための相続登記については,登録免許税が免税となります。

 相続登記をしなくてもしばらくは不都合が生じないかもしれませんが、別の相続人の死亡により問題が顕在化することがあります。土地の権利があいまいになれば、不動産の所有権を違法に移転させる「地面師」の標的になる可能性もあります。また、自分の身にふりかかるリスクだけではなく、数十年が経って代が変わると、不動産登記を調べても本来の所有者がわからなくなることがあり、子孫に余計な負担を負わせかねません。不動産の存在を相続人が知らず、後々気づいてから遺産分割協議をやり直し、相続税の修正申告をせざるを得ないケースもあります。

 相続登記していない土地の有無を確認して、もし登記が完了していなければ、名義を変更することが相続対策において重要なポイントになります。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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