第467話 法定相続情報証明制度

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 相続人全員の氏名や本籍などの戸籍情報をまとめた文書を相続手続きの証明書として利用する「法定相続情報証明制度」。昨年5月からスタートしたこの制度によって相続人の手続きが簡素化します。相続登記をする人が増えて自治体による所有者把握が進み、固定資産税の徴収や公共工事がスムーズになる事を国や自治体は期待します。

 しかし相続人にとっては、相続登記をするメリットはどこにあるのでしょうか。

 不動産の登記名義人だった人が死亡した際は、一般的に財産を受け取った人が所有権の移転登記をするものとされています。しかし登記は任意ですので、仮に手続きをしなくても罰則があるわけではありません。そのため、特に資産価値が低い不動産を相続した人は面倒な相続登記をせず、被相続人名義のまま放置することがあります。そうなると国や自治体は本来の所有者を把握することができず、老朽化したまま放置された空き家の処理ができなかったり、固定資産税を徴収できなかったりといった支障が生じることになります。

 民間シンクタンクの公益財団法人東京財団の自治体向けアンケート調査によりますと、回答した自治体のうち、相続登記が行われていないために自治体が実際の所有者を調べきれず“やむなく”死亡者名義で固定資産税を課税する「死亡者課税」をしている自治体は16%もありました。名義が誰であろうと相続人から固定資産税を徴収できればそれでよしとする自治体の思惑が見えます。さらに83%の自治体は「死亡者課税をしているかどうかわからない」と回答し、登記上の所有者が死亡したことに自治体が気付かず課税している可能性があるとみています。

 ほとんどの自治体が実際の所有者を把握できないまま固定資産税を課税している異常な状況が現在の状況です。

 登記しない相続人がいる理由は、手間やコストがかかるためです。登録免許税や登記簿謄本代、交通費、郵送費といった実費のほか、司法書士に依頼すれば報酬が必要になります。登記変更しなくても罰則を受けない以上、放置するという判断をしてもおかしくありません。

 また、残された不動産を受け取れると判断して登記した後、実際には別の人が相続することになると新たに登記コストが掛かるため、先延ばしにしているうちに手続きを忘れてしまう人もいます。

 しかし、相続登記をしていないと売却や担保提供などの不動産活用の際に支障が生じます。

 親が数十年前に相続した不動産の相続登記をしないまま死亡したとします。新たに相続した子供が名義を書き換えるための登記をするには、親の戸籍を含めて数十年前の資料を取り寄せなければなりません。しかし、役所にはすべての資料が残されているわけではありません。

 例えば死亡した人の住民票の除票なら5年などと定められた「法定保続期限」があり、これを過ぎたものは廃棄されている可能性があります。ということは、相続人がその不動産を売却もしくは担保提供するための資料を用意できないという事態がおこりかねません。

 また、不動産を担保にして金融機関からお金を借りる際も、自分名義に書き換えておかなければなりません。名義の変更をしなかったために、融資を受けるタイミングが遅くなってしまう可能性は考慮しておかなければなりません。

 相続登記しない相続人がいることを受けて、法務省がスタートさせたのが「法定相続情報証明制度」です。相続の手続きを簡素化することで相続登記を後押しする狙いがあります。

 親族が死亡すると、相続人は相続税の申告、不動産登記の変更、銀行口座の解約などの手続きのため、被相続人の出生から死亡までの戸籍や相続人全員の戸籍など大量の戸籍書類一式を何セットもそろえなければなりません。同制度ではこれらの情報を1通の証明書にまとめ、手続きを簡素化します。

 この制度を利用するには、相続人は全国に417ヶ所ある登記所のいずれかに、被相続人が生まれてから死亡するまでの戸籍関係書類と、被相続人と相続人の情報を記した「法定相続情報一覧図」を提出する必要があります。一覧図に記入するのは被相続人の氏名、住所、生年月日、死亡年月日、相続人の氏名、住所、生年月日、続柄で、作成自体難しくありません。登記所の登記官はこれらの提出書類を確認してから、偽造防止措置が施された認証文付きの法定相続情報一覧図の写しを相続人に渡します。相続人はこの写しを数枚用意することで、戸籍書類一式を何セットもそろえる必要がなくなります。

 この法定相続情報一覧図の写しは、不動産登記の際の必要書類として使えるほか、被相続人の銀行口座の解約の際にも基本的に新たな証明書で対応できる見込みです。法務局が相続人確定の証明を行って「法定相続情報一覧図の写し」(証明書)を交付するので、各金融機関で戸籍関係書類のチェックを行う必要がなくなり、結果として、手続の時間が大幅に短縮されることになります。さらに経営承継円滑化法で遺留分に関する民法特例の確認を受けるための書類にも利用できます。今年の4月からは、相続税の申告の際にも添付書類として使えるようになりました。

 ただし、被相続人や相続人が外国籍である場合など戸籍除籍謄抄本を添付できないケースでは、この制度を利用することはできません。また、相続放棄や遺産分割協議書は別途必要になります。

 そもそも同制度によって手続きが多少楽になるとはいっても、土地売却や担保提供する予定がない限り、相続登記を急ぐ必要がないことには変わりありません。相続人が登記変更しないまま放置するといった状況は今後も続きそうです。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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