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 10月18日発売の週刊文春は、片山さつき地方創生大臣が国税庁に口利きをしたという疑惑を報じました。記事によりますと、片山氏を頼った会社経営者が2015年に税務調査を受け、それにより税制優遇がある青色申告が取り消されそうになったことから、片山氏の私設秘書である税理士の男性に口利きを依頼、秘書から文書で100万円を要求されたため指定口座に振り込み、片山氏自身が国税庁関係者に電話したとされています。

 これに対して片山氏は記事で名誉を傷つけられたとして、発売元の文藝春秋に1,100万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こしました。同じく元私設秘書も疑惑を否定し、「青色申告取り消しの撤回依頼なんて受けるはずがない」と述べております。ただし会見で税理士の資格を持っている元私設秘書は、100万円は税理士業務の報酬として受け取ったことを認めています。

 青色申告は白色申告と比べて「欠損金の繰越控除」や「特別償却」「特別控除」など、多くのメリットを享受できる申告方法であり、青色申告が取り消されることは、企業にとって大きなデメリットになります。

 国税庁は事務運営指針(平成12年7月3日)で、法人の青色申告の承認取り消しを行う要件として

  1. 帳簿書類を提示しない
  2. 税務署長の指示に従わない
  3. 隠蔽、仮装等がある
  4. 無申告または期限後申告の場合

について例示しています。

ただし、隠蔽、仮装等の行為があっても、その事業年度より前の7年以内に

㋐ 青色申告承認取消処分を受けていないこと

㋑ 調査で判明した不正所得金額又は不正欠損金額が500万円に満たないこと

 ㋐㋑いずれの要件も満たし、かつ「今後適正な申告をする旨の当該法人からの申出」などがあるときは取り消しを見合わせるとされています。

 また、相当の事情がある場合の個別的な取り扱いを定めています。承認の取り消しは青色申告制度の趣旨から「真に青色申告書を提出するにふさわしくないと認められる場合に行うものである」とし、隠蔽、仮装があっても代表者などが知りえなかったと認められる場合で、かつ再発防止のための監査体制を強化するなど、今後の適正な記帳及び申告が期待できる場合には「所轄国税局長と協議の上」その事案に応じた処理を行うことができるとされています。

 この事務運営方針は青色申告の取り消し要件を整備したものですが、「今後適正な申告をする旨の当該法人からの申出などがあるとき」や「所轄国税局長と協議の上その事案に応じた処理」という文言があることで口利きが後を絶たない事情があります。

 しかし、よっぽどの事案でなければ青色申告が取り消されることはありません。調査官の強い意志があって初めて取り消されることになります。

 まず青色申告の普及を推奨して適正申告を促すのが国税庁の基本方針であり、取り消し処分は対象企業のダメージにより倒産してしまう恐れがあります。加えて取り消す際には国税局審理担当との折衝が必要となります。そのため調査官も積極的に行いません。

 企業にとって青色申告を取り消されるダメージは、一旦青色申告を取り消さると1年間は再申請ができなくなり、最大7年間に遡って青色申告を取り消され、各種優遇が適用されないばかりか繰越欠損金があっても控除できません。

 ともあれ記事にあるように調査官が書類を元私設秘書に手渡したのなら調査記録に残っているはずです。国税はしかるべき権限を持つ機関からの要請をまって開示するつもりと思われます。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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