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 相続税の調査では、「名義預金」を調査官に指摘され、相続人が修正申告を余儀なくされるということがしばしばあります。名義預金とは、本来は被相続人の資産であるにもかかわらず、配偶者や子供などの相続人の名義の口座に預けているお金のことです。この名義預金を相続財産に含めなかった行為が重加算税の対象となる「仮装・隠蔽」にあたるかどうかが争われた事例(平成29年8月2日採決)を紹介します。

 相続人AさんはBさんの死去に伴って財産を相続し、相続税の申告書を期限内に提出しました。その後の税務調査で家族名義の普通預金を相続財産に含めていなかったことが発覚し、税務署からそれらの財産について過少申告があったとする更正処分を受けたのですが、税務署の処分はそれだけにとどまりませんでした。相続財産を隠蔽していたとして、重加算税も課税されたのです。

 税務署の主張は、家族名義の預金はBさん名義の普通預金口座からの出金を原資とするものであり、家族名義の口座に入金したのもBさんの指示によるもので、実質的にBさんの財産であるというものです。Aさんはこの処分に納得せず、国税不服審判所で争うことにしました。

 税務署の主張に対してAさんは、Bさんの財産であるとは認めたものの、家族名義の預金はBさんから通常必要と認められる生活費として贈与された財産であり、相続財産ではないとしました。財産が贈与されたものなら贈与税の対象ですが、生活費に充てることを目的とした扶養義務者間の贈与に関しては「通常必要なもの」に限って非課税財産とされており、そのルールが適用されるとAさんは主張しました。問題となった預金は1千万円を超えていたので、生活費にしては高額に思えますが、Aさんはそれでも「Bの財産状況から判断すれば妥当」としました。

 しかし国税不服審判所は、税務署に軍配をあげました。まず、「預貯金は名義人に帰属するのが通常」とはしたものの、別の名義への預け替えが容易であることから、その原資となる財産の帰属、管理状況、贈与の事実の有無などを総合的に勘案して判断するのが相当とする基準をおきました。そのうえで、Bさんの家族名義の預金の原資はBさんの財産である事、管理はBさんが行っていたという状況、さらにこの預金が家族の生活費として運用されていないことを総合的に考慮すると、家族名義の預金はBさんの相続財産に該当すると判断を下しました。また、重加算税の賦課要件である隠蔽の有無に関しても、税理士に預金の存在についてあえて秘匿するなど、過少に申告することを意図した行動がうかがえるとして、税務署の判断同様に隠ぺい行為があったとしました。

 近年は税務署による名義預金のチェックが厳しくなっています。預金の一部を配偶者や子供の名義の預金口座に入れるということは珍しいことではありませんが、相続財産かどうかを考える際には、やはりその原資や管理状況を確認されてしまいます。

 税務署から指摘を受けないように、資金を贈与税の非課税範囲内で通常使われている預金口座に資金を動かすなどの対策が必要です。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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