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 去年7月6日に成立した改正民法で、自筆証書遺言の作成に当たり、文書の一部がパソコンで作成できることになりました。さらに、法務局が遺言書を預かってくれる新たな制度を使えば紛失するリスクもなくなるなど、不安材料が一部解消されております。この規定は既に今年1月13日に施行されております。

 民法で認められている遺言の形式のうち「自筆証書遺言」は、作成に費用がかからず、また他人の協力は不要ですので気軽に書けます。しかし、記載漏れなどで内容が無効になるおそれや紛失のリスクを持ち合わせています。一方、費用がかかるが公証人に作成してもらう「公正証書遺言」は、内容が無効になる事や紛失の心配はありません。自筆証書遺言とはメリットとデメリットが正反対になる関係にあります。

 改正民法では、財産目録についてはパソコンでの入力が認められるようになりました。また、金融機関の通帳のコピーを遺言に添付することも可能です。この見直しによって、記載内容に誤りが生じる可能性を多少なりとも摘むことができます。これまでは、不動産の全部事項証明書や金融機関の口座番号などの大量の資料をいちいち手で書き写さなければなりませんでした。今後は、そうした手間が省けるし、土地の番号や口座番号の書き写しのミスによって内容が無効になる恐れもなくなります。相続させる財産が多ければ多いほどその1つ1つを正確に書き写すだけでも大変な手間だっただけに、この改正はありがたい話です。

 もちろん、ミスをするリスクが多少なりとも減るものの、完全になくすことは出来ません。その点では、公証人という法律実務のプロの手で作成される公正証書遺言の強みは以前同様変わりありません。

 さらに今回の改正では、法務局の保管庫に遺言書を預ける制度も導入されています。遺言の原本を保管した法務局が、相続が発生して遺族の請求があれば写しを交付するという制度で、自宅での保管と異なり、紛失や親族による改ざん・隠匿を心配する必要はなくなります。相続人は、相続が発生したら法務局に遺言の写しの交付と閲覧の請求を行い、遺言の中身を確認することになります。なお、公正証書遺言は公証役場に保管されるため、法務局に預ける制度を利用した際と同様に紛失や改ざんの恐れはありません。

 また、法務局の保管制度を利用すると「検認」が不要になります。検認とは家庭裁判所が遺言書の加除訂正の状態などの内容を明確にして偽造を防ぐための手続きです。通常は自筆証書遺言を発見した相続人はその場で封を開けてはならず、検認を受けてからでないと中身を読むことは出来ません。手続きを経ないで開封をしても遺言自体が無効になる事はありませんが、民法の規定によって5万円以下の罰金処分が科されることに加え、他の相続人に偽造を疑われる原因になりかねません。さらに、家庭裁判所が発行する検認済発行書がないと、不動産の名義変更や預金の解約などの手続きができないことになっています。検認を受けるまでには1ヶ月以上かかることもあり、不便を強いられます。しかし、保管制度を利用した遺言は検認手続きが不要になるので、相続の際におこりかねないそうしたトラブルを減らすことが可能となります。

 遺言をうまく活用すれば、特定の財産を特定の人に残し、また相続人同士の争いを最小限にとどめることができます。民法改正で遺言書の使い勝手がよくなったことを踏まえて、財産の残し方について改めて考えるようにしてみたらいかがでしょうか。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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