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 国税庁はこのほど、2018年に土地や建物を売った人の譲渡所得の合計金額が5兆円を超え、9年連続でプラスを記録したと発表しました。譲渡所得が伸び続ける背景には、近年続く地価の上昇傾向があり、土地の値段が上がるということは、相続税対策の重要性がますます高まっていることを意味します。

 相続増税をきっかけに急増した賃貸アパート建設は、家賃保証契約が後に撤回されるなど、様々なリスクが顕在化しつつあります。

 国交省が3月に発表した最新の公示地価では、全国の地価は前年から1.2%上昇しました。住宅地ではリーマン・ショック以来、初の上昇に転じた前年からプラス幅を拡大し、地方圏では全用途でバブル期以来27年ぶりのプラスに転じるなど、これまでは都市部にとどまっていた地価の上昇傾向が、ついに全国に波及しつつあります。こうした全国的な地価の高騰が、そのまま土地・建物の譲渡所得の伸びにつながっているのでしょう。

 地価の上昇はそのエリアの経済に好影響を与える一方、不動産オーナーの相続対策という観点からは素直に喜べません。相続財産の土地価格は、公示地価や現場での取引相場などを算定基礎にします。つまり地価の上昇は、そのまま相続税負担の増加を意味します。

 相続財産と見た時、現金に比べ様々な特例を利用できる不動産はそれだけ有利ですが、相続税不動産も使い方次第で子や孫に課される相続税額は大きく変わります。これこそが「相続税対策は不動産対策」と言われるゆえんで、その代表的な手法として検討されるのが、賃貸アパートやマンションの建設に他なりません。

 賃貸アパート建設が相続税対策として検討される理由は、相続税評価額の軽減の特例が利用できるのに加えて、それ自体が賃貸収入を生み出す点にあります。賃貸物件があれば、土地オーナーが健在のうちは自身の資産形成ができ、相続後は子や孫の生活の助けになります。不動産管理会社を介せば物件の管理など多くの業務を手放し、実質的な「不労所得」とすることも可能でしょう。これらの理由から、以前より多くの土地オーナーが相続税対策として賃貸不動産を建設してきました。

 しかし、賃貸不動産を使った相続税対策は様々なリスクも内包しています。特に相続税の増税によってアパート建設が流行した2015年以降、賃貸不動産が持つリスクが顕在化し、オーナーに重大な損害を与えるケースも増えてきています。

 昨年、シェアハウス「かぼちゃの馬車」を運営するスマートディズが倒産した際、問題となったのはその営業手法です。入居者が入らなくても家賃をオーナーに保証するという「サブリース」方式で契約しながら、あとから業界環境の変化などを理由に、当初からオーナーに対して約束していた賃貸支払いをストップするというやり方です。「家賃保証」を信じてアパート建設した不動産オーナーは結局多額のローン負債のみを背負うことになりました。

 このスマートディズがターゲットにしていたのが主に若年層のサラリーマン大家でした。業者はオーナーに対して「家賃一括保証」をうたった契約書を持ち掛けますが、実は家賃は相場の変動などに応じて引き下げられることが契約に盛り込まれていて、数年後には当初の想定利回りを下回り、結果、子に残すはずだった不動産が借金だらけになったというわけです。

 今年2月、消費者機構日本が、全国の賃貸アパートオーナーに情報提供を呼び掛けた結果、相続税対策として多くの資産家にアパート建設を持ちかけた業者に対して、契約時に約束されていたはずの一時金の返還を受けられないなどのトラブルが相次いでいることがわかりました。

 また業者との契約に問題がなかったとしても、賃貸アパートには空室リスクが伴います。総務省が今年4月にまとめた最新の「住宅・土地統計調査」によれば、全国にある空き家の数は846万戸に上り、そのうち50.9%にあたる431万戸が賃貸用住宅だそうです。今の日本は7.4戸に1戸が空き家で、その割合は年々増えつつあります。そんな空き家時代にアパートオーナーは入居者を集め続けなければ、有効な相続税対策がとれないことになります。将来にわたり経営が必要なアパートを手に入れることが相続税対策として正解かどうか、よくよく検討する必要がありそうです。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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