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 亡くなる前に住んでいたか事業に利用していた宅地は、相続税評価額を大きく減額する「小規模宅地等の特例」が適用できます。ただし、この特例を使うためには様々な要件を満たす必要があります。その一つが、「相続税の申告期限までに遺産が分割済みである事」です。

 スムーズに協議が終わればよいのですが、現実には話し合いがまとまらず、申告期限までに分割できないこともあるでしょう。そうした時には、「分割見込書」を相続税申告書に添付すれば、特例適用の期限を3年延長することができます。さらに3年以内に遺産分割協議がまとまらない場合にも、特段に「遺産分割ができないやむをえない事情」があるときに限って、その事情が解決するまで期限を延長することができます。

 この「やむをえない事情」とは、どのようなものを指すのでしょうか。

 実際にあった事例では、相続人のAさんは相続で取得した不動産について、相続開始から10カ月経った申告期限までに遺産分割ができなかったとして、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しました。相続財産となる不動産が多く範囲確定に時間がかかり、また相続人らでの分割協議もうまくいかなかったことが理由です。

 3年の期限延長が認められたAさんらは遺産分割協議を続行しましたが、選任した弁護士が多忙を理由になかなか協議の機会を設けず、結局病気が原因で別の弁護士に変えざるをえませんでした。

 うまく分割できない不動産部分については、現金で立て替える「代償分割」を利用することで合意を見たものの、今度はその代償金の額で争いになります。さらに賃貸不動産についての改修工事の費用精算など新たな問題が生じます。Aさんら相続人は3年間で14回に及ぶ協議を行ったものの、結局結論が出ませんでした。Aさんはこれらの経緯を踏まえて「やむをえない事情」で遺産分割ができなかったとして小規模宅地の特例の期限延長を申請しましたが、課税当局に却下され、不服審判所に申し出ても認めてもらえませんでした。

 審判所は、相続人や相続財産の範囲が少なくとも4回目の協議までで確定していた事実から、賃貸物件の改修工事費用の問題が解決されなくても遺産分割は可能であったと認定しました。また代償分割の金額については「相続人の中に納得しなかった者がいただけで、相続評価額などを基に遺産分割をすることは可能だった」と結論付けました。

 審判所によれば、特例による期限延長が認められるのは、遺産の範囲や遺言の効力についての争いがあって法的な解決手段がとられているケースや、遺産分割が法的に不可能なケースなどがこれに当たることになります。相続人同士の遺産争奪戦は「やむをえない事情」に当たらないことに注意が必要となります。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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