私が、仙台で税理士試験の相続税法を猛勉強していたときのことです。試験は理論と計算で構成されているので、ある程度の条文は暗記しておかなければなりません。そのため理論集なるものを購入して、想定理論問題の模範解答を丸暗記していたことを思い出します。その本に相続税の課税根拠について所得税の課税漏れ部分に対する精算課税として書かれてあったことを思い出しました。当時は、受験に必死だったので何の疑問も持たずに丸暗記しておりましたが、今思えば、例えば、所得税の課税漏れ部分を精算するといっても、それがどの部分か具体的には特定できませんし、また所得税が課税された残りの財産であっても相続税は課税されます。そうすると同一財産について所得税と相続税が二重に課税されるように思われます。またこのような考え方は、日本中の資産家を脱税者・犯罪者呼ばわりしていることと同じです。相続税の課税理由には、他に富の再分配という考え方があります。富の再分配の考え方は、財産の相続をそのまま認めると財産はどんどん集中することとなります。それを防止する意味で相続税を課税し、富の集中化を緩和しようとするものです。しかし、富の集中化を防止するといっても、そもそも富の集中化をどうして防止しなければならないのか、またなぜそれを課税という方法でやらなければならないのか明確ではありません。
「自由主義のルールは、だれもが同じ条件で競争をしたうえで、勝者と敗者が決まるのを受け入れることだ。だが生まれた時から恵まれた子どもがいるのなら、社会の基盤である機会平等が損なわれてしまう。したがって自由な社会を守るためには、一定額以上の相続財産を国家が没収することは正当化できる」
という考え方もあります。国家戦略として富の再分配や階層の固定化を避けるという目的を達成させるため相続税をかける必要性があるという理由です。
死人に口なしというか、財産を築き上げた故人の遺志は、この場合、ある意味で無視されます。相続人が相続財産を取得するということは、棚から牡丹餅が落ちてきたようなものだから、所得税の一時所得のごとく、そこに担税力があるという見方でしょうか。だけどその財産は、すでに所得税として課税徴収された後の財産なのですけどね…。考えれば考えるほどわからなくなります。ちなみに、今回の税制改正で、相続税の税率がアップして、最高税率は、50%から55%になっております。