相続トラブルといえば、「お金持ちの人達だけの話でしょ?」と思われる方もいらっしゃると思います。
実は富豪層で多いのは相続税に関するトラブルであって、一般的な家庭では、遺産分割の金額や割合で遺族同士が揉めるケースが急増しているのです。
たとえ、遺言状で被相続人が法定相続人に対する財産の割り当てを決めていたとしても、法定相続人には遺留分が認められており、これにより、訴訟にまで至るケースがままあります。そういう私自身、仙台で開業してからお客様の相続の案件で、この遺留分でもめたことが何回かありました。
相続税の申告に欠かせない遺産分割の障害にもなりかねないこの遺留分制度は、税理士の悩みの種であるといっても過言ではありません。
では、なぜ遺言状で既に決められた法定相続人への遺産分割を変えなければならない遺留分という制度を法で認めているのでしょうか?
第8話でも少し遺留分のお話をしましたが、今回はもっと深く掘り下げてみたいと思います。民法では、相続人になれる人を決めており、それを法定相続人と言います。この法定相続人(兄弟姉妹を除く。)には,遺言によっても侵し得ない「遺留分」という最低限度の遺産に対する取り分が確保されています。この遺留分を請求する権利のことを「遺留分減殺請求」といいます。
法定相続人には,民法上,一定の割合で相続財産を受け継ぐことができることが定められています。この割合のことを法定相続分といいます。
もっとも,この法定相続分は絶対ではありません。すなわち,被相続人は,遺言によって,法定相続分と異なる遺産の配分を決めておくことができるからです。
遺言が適式なものであれば,たとえ法定相続分と異なる遺産の配分の割合を定めていたとしても,それは有効となります。つまり,法定相続分よりも,遺言の方が優先されるということです。そうすると,相続人の中には,遺言が作成されたことにより,法定相続分よりも少ない財産しかもらえないという人も出てくることになります。
とはいえ,遺言によってあまりに著しく法定相続分を減少させることができるとすると,法定相続人の期待を大きく害することになります。そこで,民法は,法定相続人(兄弟姉妹を除く。)に対して,遺言によっても侵し得ない相続財産に対する最低限度の取り分を確保しています。この最低限度の取り分のことを「遺留分」といいます。なお,法定相続人であっても,「兄弟姉妹」には遺留分は認められていません。遺留分が認められる法定相続人とは,「子」「直系尊属」「配偶者」だけであるということには注意が必要です。
相続財産を形成したのは被相続人ですから,相続についても,その被相続人の意思は最大限尊重されるべきです。そして,それを実現する制度が遺言という制度です。
したがって,仮に遺言によって法定相続分を下回る財産しかもらえない法定相続人がいたとしても,やむを得ないはずですが,法はあえて,遺留分という制度を設けて,法定相続人(兄弟姉妹を除く。)に最低限の権利を保障しようとしています。
なぜ,一定の範囲とはいえ,被相続人の意思を限定するような遺留分という制度を設けているのかについては,以下のような趣旨・目的があると解されています。
すなわち,そもそも法が相続という制度を設けて,近親者に亡くなった人の財産を承継させようとしたのは,その近親者の生活を維持するということにも目的があるとされています。また,近親者側からすれば,ともに生活をしてきた被相続人の財産は,自分たちに受け継がれるべきであるという一種の期待権もあるでしょう。そこで,被相続人の意思を尊重しつつも,相続制度の趣旨である近親者の生活権の保障および近親者の期待権の保護も考慮して,両者を調整するものとして,遺留分という制度が設けられていると考えられています。遺留分は,法定相続人に認められた最低限度の取り分ですから,当然,法定相続分よりも少ない割合ということになります。この遺留分は,民法上,以下の割合と定められています。
- 直系尊属のみが法定相続人である場合には,その法定相続分の3分の1
- 上記以外の場合には,その法定相続分の2分の1