第32話 白紙の領収書問題について考える
10月6日の参院予算委員会で、国会議員が同僚議員の政治資金パーティーの会費を支払う際に、パーティーを主催した議員側が白紙の領収書を発行し、参加した議員側が日付・宛名・金額を自分で書き込むことが常態化している実態が明らかになりました。
共産党の小池晃・書記局長は、稲田朋美防衛相の政治資金収支報告書に添付された領収書を調べたところ、「筆跡鑑定の結果、数字、金額はすべて同一人物の記載であると分かった」と説明。菅義偉官房長官と高市早苗総務相にも同様の事例が見つかったとし、「白紙の領収書に自ら書き込んだのではないか」と追及しました。
小池氏は稲田氏と菅氏の収支報告書に添付されたパーティー支出の領収書を調査。その結果、同一人物が記入したとみられる領収書が、菅氏は約270枚(1875万円分)、稲田氏は約260枚(520万円分)存在すると指摘しました。
稲田氏は「稲田側で日付宛名および金額を記述したものが存在しており、御指摘になったとおり」と小池氏の指摘を認めましたが、「数百人規模が参加するパーティーで、祝儀袋を開封して確認した上で宛先や金額を記載すると、受付が混乱するとパーティーの運営に支障が生じる」と釈明に追われました。その上で稲田氏は、「互いに面識のある主催者と参加者の間では主催者側の了解のもと、参加者側が記載することがしばしば行われている」と弁明しました。
菅氏も、自民党議員の政治資金パーティーで会費を支払った際、白紙の領収書を受け取り「菅事務所で日付、宛名、金額を記したものが存在する」と認めました。その一方で、「政治資金規正法上、政治団体が徴収する領収書に際して発行者側の作成法についての規定はない」とし、法的な問題はないと釈明しました。金額の水増しについては否定しました。
政治資金規正法を所管する高市早苗総務相は「領収書作成方法は法律で規定されておらず、パーティー主催者から了解を得ていれば法律上の問題は生じない」との見解を示しました。
この記事を読んで、皆さん、どのように思われましたか?
そもそも、「領収書」というのは、金銭を受領した側が、その受領の事実を証明するために金銭を支払った側に交付する書面であります。最も重要な要素である「金額」を記入せずに渡して、支払った側に記入してもらうのでは、「領収書」をやり取りする意味がありません。政治資金規正法が認めている国会議員の政治資金パーティーで、「白紙領収書」のやり取りという「非常識なやり方」が横行していること自体が、厳しい社会的批判を受けるのは当然といえましょう。
まず、政治資金パーティーでの「白紙領収書」のやり取りが「違法」なのかどうかということですが、領収書というのは、金銭の授受を証明するための手段であり、「文書」である以上、その記入を作成者が他人に代行させることは可能といえます。支払者自身が正確に金額を確認して記入するよう委任することも、「領収書」の本来の趣旨には反するものではありますが、金銭授受の客観的事実に誤りがないのであれば、それ自体が法律上の問題になるわけではありません。政治資金規正法に、「領収書の作成方法」に関する規定があり、支払者側が記入することが禁止されているのであれば、政治資金の処理に関して白紙で交付された領収書を用いることは違法となりますが、そのような規定がない以上、政治資金規正法違反の問題は生じません。また、作成者の承諾を得て、他人が文書を作成した場合に、「偽造」の問題が生じないのは当然であります。地方議会での政務調査費の不正請求に関して「白紙領収書」が使われていた問題は、金銭授受の事実がないのに、それがあるかのような「虚偽の領収書」を作成していた問題であり、稲田・菅両氏が認めている「白紙領収書」の問題とは異なるものといえます。
しかし、法律上問題ないからと言って、すべてが是認されるわけではありません。
「白紙領収書」の「不適切さ」には、客観面の問題と主観面の問題とが考えられます。
客観面の問題というのは、事実とは異なる金銭授受が作り上げられ、それが、脱税・詐欺・不正請求等の手段に使われる恐れがあることです。
金銭授受の客観的な事実を領収書以外の方法で証明できるが、何らかの理由で形式上「領収書」が必要な場合などは、白紙のままやり取りされたとしても、客観面での「不適切さ」のレベルは低いといえます。例えば、銀行振込による支払いをした場合について、形式上「領収書」の提出が必要な場合、予め「白紙領収書」を渡しておいて、支払者の方で送金手続を完了した段階で、自ら金額を記入するというやり方をとったとしても、客観的事実と、そごが生じる可能性はほとんどありません。
また、『現金受領時に金額を確かめずに白紙領収書を渡し、その後に、受領者の方で金額を確認した上で、その金額を支払者に連絡して、金額の記入を代行してもらう』というやり方をとった場合には、受領者側で、確認した金額を記載した領収書の「控え」を作成するはずです。支払者が「白紙領収書」に記入した金額が、その「控え」の記載と一致しているのであれば実質的な問題はありません。
要するに、領収書の記載と「支払の客観的事実」との一致が担保されているのであれば、客観面での「不適切さ」のレベルは低いといえます。
ここで問題となるのが、政治資金パーティーでの国会議員間の「白紙領収書」のやり取りに関して、「支払の客観的事実との一致」が担保されているといえるのかどうか、逆にいえば、「白紙領収書」のやり取りが、事実とは異なる金銭の授受があったかのような政治資金の処理、すなわち「不正の手段」に使われる可能性がないのかどうかなのであります。
この点に関しては、「政治資金パーティー」という政治資金集めの手段が、政治資金規正法が認める方法の中で、年間5万円以上の場合が全て収支報告書で公開される寄附と比較して「不透明な手法」であることとの関係が問題となります。政治資金パーティーの収入に関しては、一件20万円までの会費の支払は、政治資金収支報告書には、個別に記載する必要はなく、パーティー収入の総額のみ記載されれば良いことになっています。個別に支払われた会費の金額が、収支報告書に記載されて公開されないという匿名性・不透明性が、企業・団体献金に対する制限強化の中で「隠れ蓑」となり、過去には、政治資金をめぐる「不正の温床」にもなってきました。
10月6日の参議院予算委員会で、高市総務大臣は、以下のように答弁しています。
『主催者も、来賓として出席した者も国会議員である場合、双方の事務所においてパーティーの日付、名称、出金額または入金額が記録されていますから、事実と異なる必要事項の領収書への記入というものはまず発生しないと考えられることから、出席国会議員側による記入を了解する関係というものが成立すると考えられます。ちなみに、特定パーティーの報告書ですけれども、対価にかかる収入の金額の横に対価の支払いをした者の数も記入しなければなりません。ともに政治家の国会議員の事務所ですから、ここのところは出金も、それから入金もお互いに記録をしている。パーティー券も、これは政治資金法に基づくパーティーであることをちゃんと記した書面を交付しなければいけないわけですから、それによって互いに保管していると。こういったことから出席者側による記入を了解される関係が成立すると考えております』
高市大臣は、当事者の国会議員が、双方の事務所で、パーティーの日付・名称とそのパーティーで支払った金額・受け取った金額を記録していて、事実と異なる金額が記載されることは考えられないので、主催者側の了解を得て出席者側が金額を記入しても問題ないといっております。
そこで問題となるのが、20万円以下の対価の支払が政治資金収支報告書で公開されない政治資金パーティーについて、「入出金が正しく記録されている」といえるかどうかなのであります。
この点に関して重要なことは、パーティーに関する「入出金の記録」は、収支報告書による公開の対象にはなっていませんが、政治資金規正法により、法律上、作成・備付けが義務づけている会計帳簿の記載事項とされていますので、「白紙領収書」を交付した場合でも、その収入を会計帳簿に記載しなければならず、事実と異なる記載をすれば、会計帳簿虚偽記入罪が成立するということであります。もちろん、会計帳簿は公開されるものではなく、会計帳簿虚偽記入罪で摘発された話は聞いたことがありませんので、パーティー券収入が、実際にどれだけ正確に記載されているかはわかりません。しかし、パーティーに参加した国会議員の側では、相手方の会計帳簿への記載がずさんであるか否かはわからない以上、それを見越して、白紙の領収書に事実に反する記載を行うということは考えにくいといえます。
このようなことから、政治資金パーティーにおける「白紙領収書」については、「支払の客観的事実との一致」の担保という面ではあまり問題はなく、不正の手段にされる可能性も低いといえるかもしれません。つまり、客観面での「不適切さ」のレベルは低いといえると思われます。
しかし、「白紙領収書」が領収書の本来の作成方法ではなく、そのようなやり方が横行することが、適正な会計処理や税務申告を阻害することに変わりはありません。国会議員の政治資金パーティーにおいて、そのようなやり方が、当たり前のようにまかり通っていると国民に認識されることは、大きな社会的弊害をもたらします。それが、主観面での「不適切さ」の問題であります。
これまで「政治とカネ」の問題が表面化する度に、政治資金規正法のルールが強化され、とりわけ、以前は、政治資金の「収入」面の問題が中心で、あまり問題にされることがなかった政治資金の「支出」の問題が、事務所費の問題等として、しばしば問題化し、すべての支出に領収書添付が義務付けられるに至って、国民には、「領収書」が、政治資金の適正処理において極めて重要なものと認識されるようになりました。その「領収書」に関して、国会議員間においては、白紙のまま授受されるという「世の中ではおよそ通用しないやり方」が用いられていること自体が、政治に対する更なる不信を生じさせることになりかねません。
そもそも、多数の参加者が集まる政治資金パーティーに国会議員が参加する際に、「水引」に入れた現金を持参するという慣行が、「事務手続上の必要」から「白紙領収書」を交付することにつながった根本的な原因なのではないでしょうか。政治資金パーティーは、政党や政治家が、広く浅く政治資金の提供を受けるための手段であり、それは、本来、国会議員間の資金のやり取りに使うためのものではありません。もし、他の政治家の政治活動を資金的に支援したいのであれば、その金額を、振込送金等の方法で、資金管理団体等に寄附すれば良いのであります。
政治資金パーティーに、有力国会議員が来賓として招かれたのであれば、参加して、挨拶・スピーチを行うこと、少なくとも、パーティーに顔を見せることだけでも、パーティー主催者の議員にとって有難いことでありましょう。その際に、「ご祝儀」として、「水引」に入れた現金を手渡すという旧態依然としたやり方を続けることは、透明性が強く求められている現在の政治の世界にそぐわないように思われます。
自民党二階幹事長の通達も、短期的には守られるのでありましょうが、水引に入れた現金授受の慣行が変わらなければ、いずれ、パーティー後に、金額を確認して領収書を送るという煩雑な方法はとられなくなっていく可能性が高いと思われます。
政治資金パーティーにおける国会議員間の現金授受という「不透明なやり方」を改めることが、今回の「白紙領収書」問題の根本的な解決方法であるように思われます。
- 二階幹事長通達内容骨子
政治資金パーティーにかかる運用改善について、パーティーのときに当日、受付で主催団体が金額などちゃんと記載した領収書を交付するということは当然でありますが、受付が混雑するなど実際、その場で所定事項を記載した領収書を渡すことが困難な場合、これは事後に所定事項を記載した領収書を交付すること、これは当然でありますし、大事なことだと思いますから、そのようにこれから改善していくようにしていきたいと思っております。各事務所のパーティーにおける受付事務の運用改善をすること、これはお互いに人手が少ないわけですから、これは応援し合って、皆さんに対してのご報告も明確にしていくと同時に、一般の皆様にもその都度そういうことを 明らかにするということは大事なことだと思っておりますから、今後できるだけ改善に努力するように党として対応していきたいと思っております。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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