第35話でお話ししたように米共和党のドナルド・トランプ新大統領の就任式が20日(日本時間21日)、首都ワシントンの連邦議会議事堂前で行われました。マイク・ペンス新副大統領の就任宣誓に続き、トランプ氏が宣誓し、第45代大統領に就任しました。
就任演説では、経済や雇用の改善を強調し、TPP離脱など米国第一主義を掲げ公約の実現に動き出す意向です。
気になるのは、政策による景気の動向ですが、ドナルド・トランプ政権の画期的な経済政策で、米国の景気は長期的に良くなると思われます。
トランプ氏が公約した経済政策の第1は「国内のインフラ再整備」です。10年間で約1兆ドル(約117兆3400億円)のインフラ投資を計画しています。高速道路など、米国内のインフラは数十年にわたって過少投資となっており、十分なメンテナンスさえ行われてきませんでした。
「米国内のインフラは発展途上国並みに劣化しつつある」というのがトランプ氏の指摘です。この問題を一挙に解決しようというものです。
第2に、トランプ氏は「大規模な減税と税制の簡素化を行う」といっております。減税をやるうえ、巨額インフラ投資を行うのですから、景気がよくなることは目に見えています。
第3に「国防費増大」も景気を好転させます。
第4に「規制緩和」。特に、オバマ政権が導入した過剰な環境規制を緩和し、国内の石油と天然ガスの開発を大胆に進める意向です。これは国内の投資と雇用の拡大を呼び、景気をさらに高いレベルに押し上げることになります。エネルギー資源は海外に輸出できるため、米国の貿易収支の改善にも貢献します。これで世界の基軸通貨ドルの寿命は延命するでしょう。
ここで問題となるのは、国内インフラ整備を行う財源の確保と人材の確保です。
トランプ氏は、海外のタックスヘイブン(租税回避地)に存在する約2.5兆ドル(約293兆4000億円)という多国籍企業の内部留保を米国に還流させようとしています。35%の法人税を15%に減額し、国内に戻そうというものです。
これに成功すれば、4000億ドル(約46兆9440億円)に近い税収を得ることができます。足りない分は、財政の余裕のある州には州債を発行して賄ってもらう。それでも足りない分は、国内インフラ銀行をつくり債券を発行することになるでしょう。
これは連邦政府の負債になりますが、実質3%から4%の成長が達成できれば、連邦政府債務の対GDP比率は確実に減らすことができます。
ただ気になるのは、トランプ氏が掲げる移民政策です。彼は既に犯罪歴のある不法移民、最大300万人を国外に強制送還すると明言しています。アメリカに不法に滞在している外国人は約1100万人といわれております。アメリカ経済は、安い賃金や3K労働をいとわない不法移民の存在で成り立ってきました。すべての不法移民を強制送還することになると、経済インフラの崩壊を招きかねません。
ただ米国が好景気となれば、当然、日本経済には追い風となります。すでに為替市場に表れているように、基調は「ドル高円安」だから、日本経済も順調な成長路線に乗ると思われます。石油や天然ガスは安価に供給されるのですから、日本としては願ったりかなったりです。
一方、中国経済の不況は長期化するでしょう。「人民元安」となりますが、国内はインフレで、かつてのような輸出競争力を取り戻すことはないと思われます。
ヨーロッパ経済も長期停滞となるでしょう。今年はイタリアのEU離脱の可能性が高く、フランスにもその可能性はあります。EUの結束が弱まり、金融危機の深刻化・長期化を避けることはできないものと思われます。
新興国の中には、米利上げの影響を受け、債務不履行に陥るところも出てきそうです。