トランプ大統領がテロ対策のために中東やアフリカの7カ国(シリア、スーダン、イラン、イラク、ソマリア、イエメン、スーダン)の国民に対して3カ月間の入国禁止と、難民の受け入れを一時停止する大統領令に署名したため、アメリカへ航空機で到着したイスラム系の人々が次々に空港で入国を拒否され、拘束される事態が起こりました。
アメリカ政府のこうした強硬策は、なにもトランプ大統領の就任以後に突如はじまったものではありません。2015年11月のパリ同時攻撃を受けて、2016年1月21日から既に「テロリスト渡航防止法」が施行されております。
同法では、日本国籍を含む世界中の人々のビザ免除プログラムを改定し、2011年3月1日以降にイラン、イラク、スーダンまたはシリアに渡航または滞在したことがある者(公務、人道支援、報道等の目的による渡航に対しては個別に審査された後に免除される可能性があります。)は、大使館や領事館にビザを申請し、面接を受けなければならないことになっています。同法によりアメリカの入国審査は格段に厳しくなってきており、露骨な人種差別がまかり通っているのではないかと思わせられるほどです。
以前なら人種に係わらず、グリーンカード保持者はアメリカ国籍保持者と同一に扱われ、入国審査もそれほど厳しいものではありませんでした。それがこの半年ほどの間に、アラブ系ばかりか、中国系や韓国系、インド系の人々も、たとえアメリカ国籍やグリーンカードを持っていても、外国からの渡航者以上に根掘り葉掘り質問され、長時間の厳しい審査を受けるようになっています。
今回のトランプ大統領の命令によるイスラム系移民の入国拒否や拘留は、こうした格段に厳格化した入国審査を、さらに一歩進めたものです。
このトランプ大統領の変わらない主張が気になります。それは、不法移民対策と内需拡大政策。実はこの2点が第二次大戦前、ヒトラーがとった政策と酷似しているのです。
ヒトラーが大戦前、国民の圧倒的な支持を得たのは一にも二にも、国内の経済政策の成功にありました。第一次世界大戦の敗北でドイツが近隣諸国から戦時賠償金を請求され、ハイパーインフレが起こり、失業率が20%を越えたとき、ヒーローとして登場したのがヒトラーであります。徹底した内需拡大政策でドイツ全土のインフラを整備し雇用を拡大。有名な高速道路網アウトバーン建設もそのひとつです。モータリゼーションを推進し、自動車を一家に一台持てるようにと設立させた国策会社がフォルクスワーゲンでした。この経済の再構築でドイツの失業率は5%に激減しています。
さらに移民対策に対してもヒトラーは厳格で、著書『我が闘争』の一節でも「我が国は移民に対してより厳しい峻別をすべきだ」と述べています。ユダヤ人排除、アーリア人優先とする思想で、政権奪取後の当初は国外への移住促進という比較的穏健な方法をとっていました。
トランプ氏は具体的な金額こそ示していませんが、法人税の切り下げで経済を活性化させるとともに「年収2万5,000ドル以下の層に対して所得税を免除する」と発言。これに加えて本当にメキシコとの国境に壁を作ることになれば、アウトバーンばりの雇用促進が生まれます。不法移民に対しても、非合法な入国者を強制送還するとしています。
既に、これに反発するアラブ系やヒスパニック、アジア系には、支持者の白人たちによる暴力行為が発生。トランプ氏自身が「ヘイトは認めない」と呼びかけても、いつ移民への虐待につながるかはわからない様相であります。
何しろトランプ氏は、オバマ前大統領についても「イスラム教徒でテロ組織ISの創始者だ」などと罵って煽っていたほど。
その路線はまさにヒトラーとかぶるもので、言動が強い政治家だから独裁者呼ばわりするといった安直な見方ばかりではないのです。