トランプ氏自身は記者会見の冒頭で、「神がこの世に創造した中で最も多くの雇用の創出者になる」と抱負を語っていました。
その証拠として、「中国のネット通販最大手、アリババグループのジャック・マー会長など、多くのすばらしい人たちがアメリカにやってきている。彼らはこれからすごいことをするだろう。選挙結果が違っていたら、こうした人たちは別の国に行っていただろう」と自身の成果が早くも上がっていると強調しております。
また、アメリカ国内の雇用が奪われていると、メキシコに生産拠点を置く自動車メーカーへの批判を繰り返していましたが、「ここ数週間で経済にとってすばらしいニュースがあった。大手自動車メーカー、フォードがメキシコへの工場の移転計画を撤回した。フォードに感謝したい」と述べました。
さらに、米自動車最大手のゼネラル・モーターズ(GM)に対して、「フォードなどの動きに続くことを期待する」と追随を迫っています。さもないと、「海外移転しようとする企業には高い関税をかける」とお得意の恫喝も忘れておりません。
しかし、現在の米経済で、果たして雇用がそれほど重要なテーマなのかは疑問です。昨年12月の米雇用統計(速報値、季節調整済み)をみても、米国の失業率は4.7%です。これは前月比で0.1ポイントの悪化しているものの、絶対的な水準としては米連邦準備理事会が「労働市場はほぼ完全雇用だ」とみなす低い水準であります。
経済政策的には、新規雇用よりも、労働者の賃金引き上げや格差の是正に注力する方がずっと大きな意味があります。トランプ氏は誇らしげに雇用拡大を抱負として語っておりますが、実はピント外れといわざるをえません。
ついでにいえば、選挙期間中から繰り返し、トランプ氏が標的にしてきた移民の流入こそ、雇用機会の提供と相まって、米経済の成長を支えてきた源泉であります。なので、トランプ氏は、得意の絶頂の雇用拡大論議で、経済政策音痴振りを露呈したともいえます。