トランプ氏の米統領選勝利は、中間層貧困層(特に白人)の貧困による不満を、他民族にぶつけ既存勢力を批判することでもたらされたものといえます。
これは、第67話でも取り上げたように例えば戦前にナチスドイツのヒトラーが、貧困にあえぐドイツ民族に今の社会勢力の打破、他民族排除を訴え、第一党となった状況と酷似しているといえます。
この1,2年で、フランス、デンマーク、ポーランド、スイス、ベルギー、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、オーストリア、ドイツ、オーストラリアなど各国で極右政党がその支持を広めています。
IS(イスラム国)が資金援助により育成され、シリア等で紛争が起き難民が増えたことにより、他民族へ対する不満が高まっているのもこの大きな要因です。
残念ながら世界は最近、第二次世界大戦前のように、ブロック経済化、排外主義化しつつある状況があります。
そういう状況から、情勢不安を招き、戦前のように経済的、政治的な混乱から衝突が始まることも多いため、注意が必要です。戦前の歴史に学び、このような動きに走らないこと、沈静化することを願います。
黒人、女性、性的少数者の解放と進んできた米国社会でしたが、中西部や南西部の人びとには進み方が速すぎたようです。そんな鬱憤の溜まった階層では、格差社会の非民主的経済で一段と不満を募らせました。彼らはその不満を政治的な民主主裁のシステムによって爆発させたともとれます。
非民主的な経済から発した怒りが、トランプという排他主義者を求めてしまいました。さらに怒りは差別と偏狭さに転じています。これは皮肉というよりも、悲劇です。
選挙戦でトランプ氏が表明した政策には、効果が疑問なものが多すぎます。例えば、関税の引き上げです。輸入品が値上がりすれば、低所得者ほど影響を受けやすく、部品などの調達コストの増加から、雇用状態が悪化する事態も当然考えられます。
トランプ氏が選挙に勝った要因に、政策よりも感情が優先するアメリカ社会があります。今の状況は、比較的リベラルな層も含め、トランプ氏に『変化』を求めた結果だと思います。格差を背景に政治家やメディアなど既得権層に対する憤りと『ざまあみろ』という痛快さがあったのでしょう。
トランプ氏は勝利宣言で「今は分断を修復して団結する時だ」と融和を呼び掛けるなど、過激な発言を封印していますが、差別的、排外主義的な言動への共感は国内外に広がっています。グローバル経済の中で、貧困や格差の広がりを不安に思う人々の感情は、排外主義やヘイトクライムと結び付きやすいし、社会が分断された結果、秩序を壊すとあおる独裁者が求心力を増すという事態はどこの国でも起こり得ます。
選挙期間中にトランプ氏は、在イスラエルの米国大使館をテルアビブからエルサレムに移転するといっていました。
イスラエルは、エルサレムを首都と規定しております。しかし、エルサレムの東半分は、イスラエルが1967年の「六日戦争」(第3次中東戦争)で占領した後、併合した領域です。そのため、エルサレムに現在、大使館を置いている国は一つもありません。
仮に米国が大使館をエルサレムに移転すれば、東エルサレムがイスラエル領であると承認する効果を持ちます。これに反発してパレスチナの過激派がイスラエルに対して武装攻撃を行うことは必至であります。
そうなると、国内にパレスチナ人を多く抱えるヨルダンの政情が不安定になり、ヨルダンの王制が崩壊して、その空白を「イスラム国」(IS)のような過激派が埋める危険があります。 さらに、アラブ諸国の対米関係、対イスラエル関係が急速に悪化します。米国大使館のエルサレムへの移転をきっかけに第5次中東戦争が勃発するかもしれません。
そうなると中東からの石油、天然ガスの輸入に支障が生じ、日本経済に深刻な影響を与える結果となります。
戦争は、破壊しかもたらしません。そうならないように祈るしかありません。