第121話で述べたとおり、相続分のないことの証明書(特別受益証明書)には、「相続すべき相続分が無いこと」が書かれていれば足ります。生前贈与などを受けた財産の内容を書く必要はありません。
そのため、実際には特別受益に相当する生前贈与などを受けていないにもかかわらず、遺産分割協議をおこなう手間を避けるために、「相続分のないことの証明書」が作成されることがあります。
このような「相続分のないことの証明書」を添付しての相続登記を行った場合、後になって問題が生じることがあります。特にある相続人を遺産分割協議の当事者から除外することを目的としての「相続分のないことの証明書」は作成すべきではないでしょう。
他の相続人から、「相続分のないことの証明書」への署名押印を求められた場合でも、自らが特別受益者であることを認めるときを除いては、安易に応じるべきではありません。
また、現実に特別受益者であるとしても「相続分のないことの証明書」を作成するのではなく、他の相続人と一緒に遺産分割協議書に署名押印すれば済むのですから、あえて特別受益者であることを証明するための書類を作成する必要はありません。
それでは、特別受益が無いのに、相続分のないことの証明書を作成してしまった場合には、どのような扱いになるのでしょうか?
実際に相続分以上の特別受益を受けているのであれば、相続分のないことの証明書を使用しても差し支えないといえます。しかし、生前贈与などを受けた事実は無いのにもかかわらず、相続分のないことの証明書が使用されることがあります。
この場合であっても、自分には「相続分が存在しない旨」が記載された書面であることを認識して作成したのであれば、遺産分割協議が成立したものと認められるとの裁判例があります。
『相続分が存在しない旨が記載された相続分不存在証明書に自ら押印し、印鑑登録証明書を交付した。この場合、遅くとも上記書面の交付があった時までに、相続人中の1人が単独相続したこととする旨の分割協議が相続人らの間で成立した旨の分割協議が成立したものと認めるのが相当である(東京高等裁判所昭和59年9月25日判決 )』
この場合、特別受益が無かったことを理由に、相続分のないことの証明書が無効であると主張しても認められないことになります。
相続放棄と内容が実に似通った「相続分のないことの証明書」の効力。
次回は、その相違点について記述したいと思います。