家族が亡くなって、葬式やら遺産分割やら大変だったけど、自分の相続税を申告・納税したらもう一安心と思いたいところですが、実は、他人の相続税まで負担しなければならないケースがあることをご存じでしょうか? これを「連帯納付義務」といいます。
本来であれば、自分の分だけ相続税を払えば良いはずなのに、なぜ他人の分まで納付する必要があるのでしょうか?
日本の相続税制度では、「ある被相続人が亡くなった場合、その相続人が相続分に従って相続税を負担する」制度となっています。したがって、被相続人の財産を相続した人は、相続税の納付義務を負います。
さらに、「他の相続人が滞納している相続税額まで、連帯納付しなければならない」と義務付けられています。これが「連帯納付義務」です。
連帯して納付義務を負う理由ですが、裁判所が「相続税徴収を確保するため、各相続人に特別の責任を課す必要がある」と考えているからです。その結果、同じ被相続人からの相続税を滞納している相続人がいれば、他の相続人がその滞納分を連帯納付しなければなりません。
なお、納付義務は「相続により取得した財産の価額を限度額にしている」ため、それ以上の徴収はありません。あくまでも、自分が取得した財産の金額の範囲内でのみ連帯納付義務が発生します。
連帯納付義務の目的は「相続税を円滑に徴収する」ことにあります。現在の日本の相続税制度は遺産取得税方式を採用していますが、かつては遺産税方式を採用していました。
遺産税方式は、遺産全体を課税物件として、例えば、遺言執行者を納税義務者として課税する方式であり、主に、アメリカやイギリスで採用されています。
それに対し、遺産取得税方式は、相続等により遺産を取得した者を納税義務者として、その者が取得した遺産を課税物件として課税する方式であり、主にドイツやフランスで採用されています。
遺産税方式であれば、相続財産に相続税が課されるため、税の徴収漏れが少なくなります。しかし、戦後の税制度改革で日本の相続税は遺産取得税方式に移行します。遺産取得税方式では税の公平化が図れる一方、徴収漏れなどが起きる可能性があります。
そこで、民法上の連帯保証制度と類似の「連帯納付義務」を設けることになりました。相続人は相続財産を相続できる代わりに、「連帯納付責任を負うことが当然の義務」と決まりました。基本的には相続財産を取得した相続人が納税の義務を負いますが、国税当局は、相続人の誰にでも相続税の納税を命じることができるようにしたのです。
次回は、この連帯納付義務についての問題点について記述します。