第548話 青汁王子に学ぶ割に合わない脱税行為
女性向けにダイエット効果などをうたった青汁商品を手掛け、テレビやインターネットの番組に「青汁王子」として登場していた健康食品会社「メディアハーツ」の三崎優太社長が2月12日、約1億8000万円を脱税したとして、法人税法違反などの疑いで東京地検特捜部に逮捕されました。三崎容疑者は豪華マンションに居住し、高級外車や競走馬も複数所有。アクセサリーや時計を爆買いしたり、海外旅行で豪遊したりする様子をメディアが紹介し、自らもSNSで発信していました。架空の宣伝費を計上するなどし、脱税行為を行っていたようです。
通常、脱税事件は国税局の査察部(マルサ)が強制調査し、所得隠しの金額、手口の悪質さ、情状面などを検察庁と総合的に協議。多くは在宅のままで、国税局が検察庁に刑事告発するのが一般的です。そして告発を受けた検察庁が公判請求(起訴)するか否かを決めます。ほとんど起訴されますが、刑事処分をするまでもないと判断されれば、行政処分の追徴課税で済むケースもごくまれにあります。
なぜ在宅のまま告発というパターンが多いのかと言うと、強制調査を受けた段階でほとんどの対象は事実関係を認め、修正申告して情状酌量を求めます。ただでさえ反面調査で取引先に迷惑を掛けているので、今後の経営を考えると早期に幕引きしたいと考えるのはむしろ当然です。そして、国税当局も検察庁も「全面降伏したのだから証拠隠滅も逃亡の恐れもない」という判断で、在宅のまま告発・起訴という流れに落ち着くことになります。
今回、三崎容疑者は羽振りの良さをメディアに出演して披露したり、自らSNSで発信したりしていました。つまりこのこと自体「墓穴を掘った」と言わざるを得ません。国税当局は、新聞、テレビ、雑誌の報道はすべからく網羅し、ワイドショーやバラエティ番組の情報も細かくチェックしています。
出演したメディアに『年収12億円』などと語り、メディアハーツは2016年9月期の売り上げが約18億円に対し、17年9月期は約121億円。これで税務調査の対象にならないはずがありません。通常の税務調査で所得隠しが見つかり査察に切り替わったか、最初から査察部が強制調査の対象としたのかはわかりませんが、ターゲットにされたのは当然の成り行きだったのでしょう。
三崎容疑者には、今後、脱税額に加えて、6300万円ほどの重加算税とその他に延滞税の支払いが必要になると思われます。
しかし脱税によるペナルティは金銭面だけではありません。マルサが告発して裁判に入ると、その会社の代表者はほぼ100%有罪判決を受けることになります。多くは執行猶予が付いて実刑は免れますが、それでも代表者本人に「前科」が付くことに代わりはありません。
有罪判決を受けた脱税企業には、次の「3つの社会的制裁」が待ち受けています。
①金融機関の信用低下
脱税事件が発生すると、その判決の情報は新聞にも掲載されます。新聞に掲載されれば取引のある金融機関にも知ることとなり、代表者は不正に至った経緯の説明を求められるでしょう。その後の対応は脱税の内容や金融機関によって異なりますが、少なくとも新規の融資は受けられないと思ってください。
もちろん、脱税で有罪になれば納税資金の融資も受けられません。脱税資金を使い果たしていた場合、自身の資産を売り払って工面するしかなくなります。
金融機関からの融資が受けられなければ企業の財務状態は悪化します。借入を利用して運転資金を回しているような状況であればなおさらです。運転資金を確保するためにノンバンクなどの高金利の借金を重ね、さらに体力が消耗するという悪循環にはまり込むリスクがあります。最悪の場合、借金を返済するために借金を重ね倒産に至る、そんな結末を迎えかねません。また、現に借入金額がある場合は、貸しはがしにあうことも考えられます。
② 取引先の信用低下
近年、企業各社はコンプライアンス(法令遵守)の取り組みを強化しています。報道によって脱税が明るみに出ると、大手を中心とした取引先企業から取引停止を通告される可能性は決して低くはありません。取引の一社依存度が高い場合、会社存続の危機に陥るリスクも十分考えられます。
③ 許認可事業の取引停止
建設業許可や産業廃棄物処理業許可、古物商など、法令上の許認可を得なければ営業を開始・継続できない事業は数多く存在します。しかし、脱税によって代表者に前科が付くと、その代表者の名義では許認可の更新ができません。ひどい場合は免許が取り消されてしまうといった可能性もあります。その場合、代表者を交代して組織体制を一新するなどしなければ、許認可事業を継続することは難しいでしょう。
このように、脱税に手を染めると金銭的なペナルティを被るだけでなく、「前科者」としてレッテルを貼られ、将来的に事業を維持・継続していくことが難しくなってしまうのが現実です。
三崎容疑者は、現在、「メディアハーツ」の代表取締役を辞任し、当面の生活費としてブランド品を全て売却しようと考え、フリーマーケットアプリ「メルカリ」に登録したものの審査に落ちたことをツイッター上で明かにしています。また競走馬を所有していましたが、馬主免許を 剥奪されたことも明かしています。そして当面の生活費を稼ぐために今現在はやきとり屋でバイト生活をしているそうです。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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