第609話 無申告
世の中にはいろんな人がいるものであります。今年芸能界をにぎわしたニュースの一つに、吉本興業所属のお笑い芸人チュートリアル徳井義実さんが7年間で約1億2千万円の申告漏れがあったとして東京国税局から追徴課税を受けていることがわかりました。2016年~18年の3年間にわたっては吉本興業からのギャラ全額が申告していなかったとして、悪質な所得隠しを認定されて重加算税含めて約3400万円の納付を済ませています。
申告漏れを指摘されたのが、徳井さんが設立した株式会社「チューリップ」です。テレビに出演したギャラなどを同社を通じて受け取っていましたが、12年~15年については私的な旅行代金や洋服代などを経費計上していたとして一部否認され、約2000万円が所得に当たると認定されました。また16年以降は法人税申告を全くしておらず、約1億円の申告漏れを指摘されました。申告していない3年間は税理士にも報酬を支払っていなかったそうです。
無申告の場合の税務調査は、通常の税務調査とは流れが違い、一般的な税務調査は、納税者のところへお邪魔させて頂き、調査に協力して貰うという低姿勢ですが、これに対し、無申告の場合の税務調査は、そもそも納税者の方が、申告義務を果たしていないので、調査官も強気の場合が多くなりますし、納税者も自業自得なので、立場が非常に弱くなります。
税理士が関与せず、納税者自身でも集計、計算できない場合は、調査官が資料を持ち帰り、税務署側で税額を計算します。特に、資料がほとんど残っていない場合は、税務署の権限で、推計課税でザックリと計算されます。集計中に時効を迎えてしまう税金がある場合は、税務署側が部分的に税額を決める、決定をしてくる場合もあります。さらに、税額が確定しても、それで終わりではありません。延滞税や重加算税などの罰金は、別途請求されます。
本人は「ごまかす気はなかった」と弁解しますが、国税当局は7年間にわたる申告漏れに対して、加算税のうち最も重い「重加算税」を課しています。重加算税が認定される要件には「仮装・隠蔽」の事実が認められた場合とありますので、故意による税金逃れが認められたことになります。
また国税通則法によれば、税務調査によって遡れることのできる年数は原則5年と定められていますが、実際、徳井さんへの税務調査も当初は16年からの3年間の無申告に対するものだったそうです。しかし通則法70条では、「偽りその他不正の行為」によって税額を逃れていたケースについては、7年を遡って調査できると定められています。徳井さんもこのルールに従い過去7年間に調査対象を拡大された結果、2000万円の不適当な経費計上を指摘されたものと言えます。
故意の税逃れであっても、税務調査のみで終わる「所得隠し」か、査察調査によって刑事事件として扱われる「脱税」になるかは、明確な区分はありません。およそ脱税額1億円がその境界線といわれますが、徳井さんは有名人で社会的影響も大きいことから3年間全くの無申告であることを踏まえれば、立件される可能性もゼロではなかったでしょう。
無申告による代償はあまりに大きかったといえましょう。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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