第616話 生命保険契約の差し押さえ
期限内に税金を納付できないと現金の代わりに財産を国税当局に差し押さえられてしまいます。差し押さえられる財産の種類に順位はありませんが、比較的現金化しやすい不動産や自動車、貴金属などが優先して差し押さえられる傾向にあります。ゴルフ会員権や特許権なども換金できるものであれば差し押さえの対象となり、もちろん生命保険契約も例外ではありません。
生命保険契約が差し押さえられる場合、大きく分けて既に何らかの保険事故が発生して支払いを待っている段階の契約と、まだ保険事故が発生していない2種類に分けられます。そして、その取扱いもそれぞれ大きく変わってきます。
前者であれば、保険金の請求権は既に受取人固有の財産として扱われます。例えば、会社が消費税を滞納してしまった場合に、会社が契約者として保険に加入していても、受取人が社長個人であった場合には差し押さえの対象にはなりません。税金を滞納したのは会社であり、社長個人ではないからです。逆に誰か加入して保険料を支払ってきた生保であっても、会社が受取人となっているなら差し押さえの対象になるということです。
次にまだ保険事故が発生していない生命保険については、解約する権利や解約返戻金を受け取る権利は契約者にあります。そのため滞納した会社が加入した保険であるなら、受取人が社長個人であっても差し押さえの対象となります。年齢や既往歴などによって新たに別の保険に加入できないなど個々の事情に配慮して差し押さえが認められない例外はありますが、原則としては加入中の生命保険は差し押さえ対象となります。
保険金の受取人にしてみれば、自分には何の非もないのに将来もらえるはずの保険金が国税当局に差し押さえられるのは納得できないかもしれません。そのため保険法では、こうした状況に陥った時、債権者である国税当局に1カ月待ってもらい、その間に解約返戻金に相当する額を納めることで、保険契約を継続してもらう「介入権」を受取人に認めています。保険商品によっては解約時期によって返戻金の額が大きく変わるため、介入権を行使して契約を維持することも一つの選択肢ですが、多大な資金を用意しなければならないので利用のハードルは高そうです。
国税当局の目的は滞納分をなるべく早く徴収することにあるので、差し押さえられた保険はすぐ解約されて返戻金に姿を変えます。そのため、返戻金のない掛け捨て保険が差し押さえの対象となる事はありえません。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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