第1201話 税理士職業賠償責任保険
税の専門家でも税金に関するミスを犯すことを前提に、税理士業界には顧客からの損害賠償請求の負担を緩和する「税理士職業賠償責任保険」(税賠保険)があります。この税賠保険に加入しているのは、約3万1千人の税理士(開業税理士の約55%)と4500社の税理士法人(税理士本店の約88%)。
日本税理士会連合会(日税連)は、毎年税賠保険の加入者が顧客から賠償請求を受けた事例を公表しています。
最新の2023年度版によれば、1年間に税賠保険で保険金が支払われた事故は633件(前年比28%増)、支払金額は23億7200万円(同32%増)に上ります。どちらも過去最高で、背景には税制の複雑化や納税者の権利意識の高まりなどがあるとみられます。大半は支払金額500万円未満ですが、1千万円を超える事故も55件発生しており、一つのミスが経営に関わるダメージに発展する可能性もあります。
なかでも失敗事例が多いのが消費税です。支払件数も約半数を占めています。例えば、消費税簡易課税制度選択不適用届出書の提出忘れによるミス。A社では、税理士が関与開始に際し、当時有利であった簡易課税制度を適用しようと届出書を提出していたところ、その後課税売上高が5千万円を超えたため、強制的に原則課税が適用され続けました。それが数年前の決算期に5千万円を下回ったことでミスが生じました。税理士は原則課税が有利なことを認識していたのにもかかわらず、不適用届出書の提出を失念。20年以上前に提出した簡易課税制度選択届出書による簡易課税が適用される事態に。この税賠によって賄われた損害額は約1220万円に上りました。
インボイス制度の導入に伴い、消費税の課税事業者に転じたケースは多いですが、この課税事業者選択届出についてもミスが発生しています。21年に設立されたB社は、太陽光発電設備の取得に伴う消費税還付を受けるため、課税事業者となることを決め、税理士に依頼しました。しかし税理士は、適用開始課税期間を22年9月期とすべきところ、誤って23年9月期と記載。還付を受け損なった額は約3千万円におよび、このうち税効果による回復額約600万円と免責30万円を差し引いた約2370万円が、税賠によって支払われました。
一方、法人税においては、税理士が賃上げ促進税制を知らなかったがために損害賠償請求にまで至ったケースもあります。
D社では、会社から預かった株主総会の議事録に基づいて税理士が事前確定届出給与に関する届出を行ったものの、肝心の賞与支給時期や金額が抜け落ちていました。これにより、役員賞与の損金は認められず、税理士への損害賠償請求に至りました。
今回紹介した事例では、納税者側からのミスの指摘によるものでしたが、賠償請求によって損害をカバーすることはできても、裁判に係る手間や時間自体が本来は無駄でしょう。間違いのない税務・申告をするためには、税理士とのコミュニケーションが必要不可欠です。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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