東京商工リサーチの調査によりますと、去年8月の「税金(社会保険料を含む)滞納」による倒産件数は14件で、前年同月比16.6%増と、2カ月連続で前年同月を上回りました。1~8月累計は110件で、2016年以降では2番目に高い水準に達しています。

 コロナ禍以降、税金滞納を苦にした倒産件数は急増し続けています。国税庁が発表した2024事業年度末時点での国税の滞納残高は、9714億円でした。22年ぶりの増加に転じた2020年度からの流れを継続し、5年連続の増加となっています。

 コロナ禍で講じられた納税猶予が終了し。無利子・無担保のゼロゼロ融資の返済も本格化。さらに物価高騰、賃上げ圧力、社会保険の加入義務拡大と過去にない資金繰り危機が中小企業を襲っています。

 もし税金を滞納してしまうと、個々の事情にもよりますが、督促状の発送から10日を経過した時点で、法律上は当局による財産の差し押さえが認められています。万が一の事態に備えて、税金滞納者に対する4種類の法定猶予制度である「納税の猶予」「換価の猶予」「滞納処分の停止」「事実上の猶予」を説明します。

 「納税の猶予」は、国税通則法46条に基づき、震災や火災などの災害により納税者が相当な被害を受けた場合や、病気、事業の停止、盗難、著しい損失などがあった場合に、本人の申請に基づいて税務署長の判断で納税が猶予される制度です。滞納処分の着手前から申請でき、滞納額の分納が認められています。延滞税も減免され、差し押さえの解除も申請できます。滞納者ではなく未納者として扱われますので、自治体の入札に参加する際などに必要とされる納税証明書の発行も可能となります。

 「換価の猶予」は、差し押さえられた財産の換価(公売・競売)が最大2年間猶予され、延滞税の1/2が免除されるものです。国税徴収法151条に規定されています。新たな差し押さえや換価などの処分を受けず、すでに差し押さえられている場合でも解除される可能性があります。かつては担当官の温情にすがって利用できた仕組みでしたが、現在は滞納者の権利として申請できる制度に改められています。

 換価の猶予には納税者の申請による「申請型」と税務署長の権限で行われる「職権型」があり、申請型は6カ月を超える滞納がない場合のみ可能です。2つのタイプに制度上の違いはありませんが、職権型では申請書に代えて「分割納付計画書」などの書類作成が求められます。

 「滞納処分の停止」は、国税徴収法153条に規定され、

  • 滞納処分を行う財産のないとき
  • 滞納者の所在および滞納処分する財産が不明なとき
  • 滞納処分を行うと生活が窮迫するとき

のいずれかに該当する場合には滞納処分が停止されます。

連日の厳しい取立てに追い詰められている滞納者にとっては、〝徳政令〟のようなありがたい措置ですが、「換価の猶予」で認められるような申請権がないため、積極的には活用できません。

 このほか、納税者の嘆願などに基づき分割払いなどを認める、いわゆる「事実上の猶予」があります。税務署にお願いに行って分割払いにしてもらうケースです。事実上の猶予は法定猶予ではありませんので、利用しても身分は滞納者のままで常に滞納処分のリスクを抱え、延滞税もかかります。

 納税者にとってはメリットの少ない制度ですが、税務署にとっては処理手続きが簡単なこともあり、相談に行くとまずこの「事実上の猶予」が勧められます。

 これら4種類の制度によって滞納者は納税負担を緩和できるのですが、現実には、そのいずれにも適用されず差し押さえの末に公売にかけられて財産を手放すケースも少なくありません。

 その理由は主に2つあり、一つは滞納者本人が制度を知らず、当局による説明もろくにされないことが挙げられます。

 そしてもう一つが、すべての法定猶予制度の決定・判断については、「税務署長は・・・することができる」とされており、申請が必ずしも認められるわけではないという点です。納税猶予制度の適用判断には明確な規定はなく、基本的に税務署長の裁量次第となっています。そのため要件に適合していると思われる案件でも差し押さえが決められ、換価の猶予が認められずに公売され、生活できなくなる恐れも否定できません。

 知らなかった、相談しなかったことで取り返しのつかない結果に陥らないよう、資金繰りに不安を感じたら、早めに専門家に相談し、最適な対応を一緒に考えることが必要です。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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