今年の確定申告時期がだんだんと近づいてきました。以前は確定申告をする人が申告会場にあふれかえっていましたが、申告会場を利用する人は年々減ってきているように思います。平成23年分の確定申告から始まった年金をもらっているだけの高齢者の大半が確定申告しなくてもよい「年金受給者の確定申告不要制度」が浸透してきたせいだとおもわれます。また国税庁のホームページも使い勝手がよくなり、パソコンを操作して簡単に確定申告ができるようになりました。
確定申告でも申告の多い医療費控除。身近な関心事であると同時に誤解も多くみられます。個別に医療費の対象となるかならないかはいったらきりがありませんが、一般的な考え方の誤解も未だにあります。
① 医療費控除は支払った医療費自体が戻ってくると思っている人がいる。
特に高齢者に多く存在します。昨年は病院にたくさん通院したからといって領収証の束を、バサッと出して一言目にどのくらい税金が戻ってくるかと聞いてくる人がいるのですが、その人は税金を一円も払っていません。確定申告は1年間の収入、経費を最終的に確定し、今まで払い過ぎた税金があった場合にその一部または全部が戻ってくる制度です。税金を払っていない人には何も返すものはありません。しかし税金が戻ってくるというより、なぜかたくさん支払った医療費が戻ってくると誤解している人も多く見受けられます。
② 医療費は10万円の壁がある。
「医療費はあるけど10万円を超えていないから。」この言葉は本当によく耳にします。もちろん、たくさんお給料をもらっている人が医療費で確定申告できる足きりは10万円ですが、給料で311万6千円以上もらっていなければ10万円をこえていなくても確定申告で税金を取り戻せます。国民年金、厚生年金といった公的年金だけの収入で65歳以上ですと320万円以上でなければ10万円の壁にあたりません。65歳未満ですと、316万6千円以上となります。実際のところ、300万円以上の公的年金を受け取っている人はあまりお会いしたことがないほどなので、高齢者は10万円超えなくても対象になるケースは多いでしょう。
③ 保険でもらった金額をすべての支払った医療費と差引してしまう。
入院をすると保険をかけている人は入院給付金が保険会社から支給されることがあります。入院給付金が7万円、入院に関しての医療費が5万円、そのほかの医療費が15万円あったとすると医療費から控除される入院給付金は、入院にかかった医療費部分だけであって、余った給付金を他の医療費に充てる必要はありません。ですから控除される保険金部分は5万円となり、申告できる医療費は13万円ではなく、15万円となります。
④ さらに誤解が広がる?スイッチOTC薬控除ってなんでしょう?
さらに今年度からはセルフメディケーション推進のためのスイッチOTC薬控除が創設されます。スイッチOTC薬とは、従来は医師だけが処方できた医薬品を薬局で買えるように転用した薬のことで、具体的にはルミフェン(解熱薬)、ガスター10(胃腸薬)、ロキソニンS(解熱鎮痛剤)などが挙げられます。定期健康診断などの健康増進を受けている人が1年間にスイッチOTC薬を購入した場合、1万2千円超える部分を医療費控除に入れることができる制度です。金額の上限は8万8千円になります。
スイッチOTC薬は確かに医療費控除の意図する「治療に該当する」医薬品ですし、忙しい人がちょっとした風邪を引いた人が病院などに行かずに手軽に購入でき、おまけに医療費控除の足きりが低いという点ではメリットも大きいです。心配はその医療費が正しく理解され申告できるかという点にあります。
この制度は、平成 29 年1 月1日から平成 33 年 12 月 31 日の間に購入した薬が対象となりますので、来年度の申告から影響が出ることになります。
今後はスイッチOTCと通常の医療費控除との選択適用となります。しかし、医療費を抑制したいという国の方針からスイッチOTC薬の所得控除は更に拡大するかもしれません。分かりにくい、誤解などを防ぐためにも表示を推奨する等の工夫やさらに誰にも分かり易いよう広報を進めていく必要があるとおもわれます。