相続開始後、遺産分割をする前に相続財産である不動産を差し押さえられることがあります(仮差押を含む)。よくあるケースが、相続人の一人に借金があって、返済が滞っている際に、その債権者が判決などに基づいて相続財産を差し押さえる場合です。
この場合、債権者は、相続人の法定相続分を差し押さえることができるので、勝手に法定相続分の相続登記をしてから、債務者(共同相続人の1人)の持分について(仮)差押え登記をします。債権者は本当に勝手にできるのです。
その後、借金のある相続人の持分をゼロとした遺産分割協議が成立しても、差押え登記が優先しますので、借金のある相続人の持分は裁判所により競売されて、第三者の持分となります。
この不動産が、相続人の1人の居住用不動産であれば、まさに悲劇です。すぐに追い出されることはありませんが、持分に応じた家賃を請求されることは確実です。競売で持分権を取得した第三者には、当然持分に応じて不動産を使用収益する権利があります(そうでなければ買わないでしょう)。
この様なことを回避する方法は、二つあります。
まず、債権者の登記前にこのような事態になることが分かっている場合(借金のある相続人が他の相続人に事情を事前に説明している場合)は、一刻も早く借金のある相続人の持分をゼロとした遺産分割協議書を作成し、相続登記をします。一旦相続登記をした場合、もはや債権者は勝手に相続登記をすることができなくなります(相続登記は早い者勝ちが原則)。対象不動産だけに限定して遺産分割協議書を作成してもかまいません(他の遺産分割は後回しにする)ので、とにかく早くしましょう。
次に債権者の登記がされてしまった場合ですが、この場合でも対処方法があります。それは、借金のある相続人が相続放棄をするのです。相続放棄をすると「初めから相続人でなかった」ことになり、債権者の相続登記は無効になります(厳密には無効ではなく更正対象になります)。したがって差押え登記は無効になります(更正登記をすることにより抹消されます)。この場合は、早い者勝ちではなく、時間的に後からであっても相続放棄が優先されます。ただし、相続放棄をした相続人には、一切の相続権がなくなります。相続放棄ができるのは、原則相続を知ってから3ヶ月以内ですので、十分注意してください。
次回は、借金がある場合の遺産分割の注意点について書きたいと思います。