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 日本の相続税の歴史は明治38年に始まり、当時は遺産の総額に応じて累進税率をかける「遺産課税方式」でした。相続人が何人いようがどのように財産分けをしようが課税額が変わらないので非常にわかりやすい反面、遺産1億円の全てを取得した時と遺産10億円のうち1億円を取得した時では、取得額が同額であるにもかかわらず後者の方が、税率が高くなってしまうという不公平さがありました。

 第2次世界大戦を経て、GHQの旗振りのもと日本の税制が大転換する中で、相続税の課税方式は、この不公平感を是正するためにそれぞれの相続人が実際にどれだけの財産を相続したかで税率を決める「遺産取得分方式」に改めました。

 多く取得した人にはその分高税率がかかり、遺産を細かく分割すればするほど税率が下がることになるので、「遺産課税方式」の弱点をカバーする一方、今度は10億円を5億円ずつ分割するか、8億円と2億円で分割するかで税額が変わってしまうという不公平感が出てきました。

 「遺産取得分課税」は、結局わずか8年で廃止され、それ以来日本では「法定相続分課税方式」を採用しています。この方式は、①まず相続財産の総額から法定相続人の数に応じた基礎控除分を引き、②それを全相続人が法定相続分に応じて取得したものとして分割して税率をかけ、③その税額を合計して相続税の総額を求め、④最後に実際に取得した割合に応じて税負担を按分する―といった複雑なもの。要するに「遺産の総額」と「各相続人の法定上の取り分」によって相続税額を計算し、それを取得割合に応じて按分することになります。

 偽装分割を防ぎ、応益負担の原則にもかなう「いいとこどり」の方式に見えますが、最近税理士会から、わずか8年で廃止された「遺産取得分方式」に戻すべきだとの声が挙がっております。

 税理士会の要望によりますと、現在の方式は、①実際に取得した額に差があっても税率は変わらず、相続人間の公平性に欠ける、②相続人が同じ額を取得していても遺産総額次第で税額が変わるのには公平性に欠ける―というデメリットがあるとのこと。また、1人の相続人に申告漏れがあったときに他の全ての相続人の相続税額に影響があることや、小規模宅地等の特例などの効果が遺産全てに及ぶことで本来特例とは関係ない相続人にまで恩恵が及ぶことから問題があるとして、個々の取得分に応じて課税される「遺産取得分方式」へ回帰することを訴えています。

 この「遺産取得分方式」が戦後の混乱期ゆえに撤回を余儀なくされたとするのなら、確かに現在の税務行政下であれば円滑に運営できる可能性はあるでしょう。もっとも現在の相続のあり方を劇的に変えることになるために慎重な議論が必要になると思われます。

 

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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