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 菅政権期間の6割超がコロナ禍における緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置期間というまさに嵐のような時間の中で、菅元首相はどのように税を集め、また使ってきたのか。税の観点から菅政権を総括してみたいと思います。

 コロナ対策に向き合った菅内閣は、2020年度に3度の補正予算を編成しています。昨年4~5月にはそれぞれ約117兆円の1次・2次補正予算を編成。そして今年1月に成立した3次補正予算でも約22兆円を積み増ししました。加えて政府は、早くも30兆円規模の21年度補正予算を検討しています。これらの予算の中には納税猶予、政府系金融機関の融資なども含まれているので、総額数百兆円の全てが税金の投下というわけではありませんがそれを踏まえても空前絶後の規模であることに変わりありません。

 しかし、その予算の使い方が適切であったのでしょうか?

 例えばコロナ過で経営難に陥った事業者を支援するための「持続化給付金」事業では、2兆円超にも上る事業予算の執行を、任意の一般社会法人に受注させた官製談合疑惑が持ち上がりました。事業を受託した「サービスデザイン推進協議会」なる団体はホームページもなければ電話番号すら定かではなく、事務所があるとされていた都内オフィスのフロアには「持続化給付事業についてご来訪の皆様」という張り紙のみが掲げられ、「新型コロナウィルス対策のためリモートワークをさせていただきます」と書かれて、インターフォンを押しても返事なく、もぬけの殻でした。さらにその後、同協議会が広告代理店大手の電通を通じて電通子会社や人材派遣大手のパソナなどに丸投げしていたことも分かり、多重委託を通じた税金の〝中抜き〟が明らかになっています。

 こうした問題が発覚したのは前の安倍政権の時でしたが、菅政権は今年8月になり、ようやく経産省による調査結果を公表し、持続化給付金に係る業務の委託は約560社に及び、最大9次請けにまで外注されていました。報告書にはそれらすべて「申請に手厚いサポートを行うため、外注は必要」として、業務の執行は「適切に整備されていた」と正当化しています。9次下請けってわけわかりません。

 コロナ予算を巡っては、2020年度の政府予算のうち、使い切れずに次年度に持ち越しになる金額が30兆円を超え、過去最高となっています。翌年度の繰越額は30兆7804億円となり、予算に盛り込んだ歳出総額の内2割が繰り越しとなっています。その内訳ですが、コロナ禍で苦しむ企業への実質無利子・無担保融資などの財源が6.4兆円、医療機関向けの緊急包括支援交付金は1.5兆円、時短営業など飲食店への協力金に充てる地方創生臨時交付金で3.3兆円などコロナ関連予算がずらりと並びます。

 政府の予算は単年度主義が原則で、年度内に使いきれない場合は国庫に返納するのがルールです。ただ自然災害など避けられない事故で支出ができなかった場合や年度内に支出が終わらない見込みのあるものは例外的に翌年度への繰り越しを認めていて、政府はこの特例を利用して約30兆円の〝積み増し〟を来年に繰り越しました。巨額の繰越金が発生したのは、3次補正予算が今年1月に成立し、年度内である3月末まで執行できなかったものが多かったこともありますが、コロナ対策の予算規模を大きく見せかけるために数字を積み上げた結果、実行のプロセスや内容に対する精査が足りなかった点は否めません。

 コロナ禍で苦しむ事業者への公金投入の内容を見ても、菅政権の色が表れています。

 安倍政権下では賃上げ、雇用増、設備投資、事業承継、地方進出など企業の取組みに様々な減税を行った結果、企業が利用した税額控除の額は数年で3倍に増加しました。菅元首相は就任時「安倍政権が進めてきた取り組みをしっかり継承する」と継承路線を歩み、事業転換や事業再編を補助する「事業再構築補助金」や資本金や従業員を増やして中小を〝卒業〟する企業には補助額を引き上げる優遇策も設けました。

 「経営資源の集約化」をテーマに中小の再編統合に向けた税優遇も菅政権の特色の一つです。また「所得拡大促進税制」の要件を緩和して雇用の促進を促す政策もとっています。

 新型コロナ禍と併せて、菅政権発足1年で最大のトピックになったのが東京五輪でしょう。コロナ禍の収束が見えないなかで五輪を開催することに対しては、経済や医療などあらゆる面で是非が問われましたが、菅元首相の最終的な結論は、「ゴー」でした。

 こうして開催された東京五輪にかかった予算が最大3兆876億円。1年の延期、開催に伴う感染予防対策などで追加の支出がかさみ、2013年の誘致時に提示していた約8050億円のほぼ4倍増となりました。無観客開催ということでチケット収入もすべて消滅し、これらの巨額な費用はすべて税金で賄われることになります。

 「国が五輪を開催できるのなら」という雰囲気が、外出や民間イベント開催を後押しし、7月初旬の1700人程度の新規感染者数が、8月20日には過去最高2万5140人を記録しています。それに伴い緊急事態宣言も継続、雇用調整助成金や月次支援金といったコロナ対策も延長されました。その財源である税収や雇用保険料は今も投下され続けています。なお五輪用コロナ対策として用意された医療用マスクやガウンの内、約500万円分は廃棄されています。

 この1年間を税の観点から見た時に、大きな特徴として税収が過去最高になった事があげられます。7月に公表された2020年度決算概要によると、一般会計の税収は60兆円(60兆8216億円)の大台に乗り、記録を更新しました。

 しかしこれは好景気によるものではなく、消費税率の引き上げが主因であります。財務省の資料「所得・消費・資産等の税収構成比の推移」によりますと、2021年度の税収に占める消費税の割合は44.7%にも上ります。

 コロナ禍を受けて野党のみならず与党内からも消費税減税や一時凍結を求める声は何度も上がりましたが、菅政権は「社会保障制度を維持するための大事な財源」として検討対象にすら挙げてきませんでした。その結果、滞納の最新実績では、消費税だけが前年比で21.6%と大きな伸びを示しており、22年ぶりに増えた税金の滞納額のメインは消費税が占めています。このようにコロナ禍で多くの事業者が苦しい状況に置かれても、菅政権はそうした声に耳を貸すことすらしませんでした。

 今後、2023年10月には、複数税率を正確に経理処理するためのインボイス制度導入が予定されています。同制度については、消費税仕入税額控除は発行されたインボイスをもとに行うため、インボイスを発行できない免税事業者が取引から除外されることが予想されます。新政権においても、今後このような路線を歩み続けるのか、注目したいところです。

 税制の在り方は、その国の在り方を映す鏡とも言えます。菅元首相の1年は、それまでの安倍政権の姿勢をおおむね引継ぎ、「政策目的のために税をその道具として活用してきた政権」といえるのではないでしょうか。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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