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 フィリピンを拠点とする犯罪集団「ルフィグループ」の特殊詐欺により、クレジットカード情報や現金をだましとられた被害者が少なくとも2300人、総額60億円以上に上っていると警察当局が発表しました。特殊詐欺で失った金は損害賠償で取り戻すのが難しく、多くの被害者は泣き寝入りを余儀なくされているのが現状です。詐欺に遭わないようにするのが何よりですが、万が一、自分自身や家族が被害に遭ってしまった時に備え、せめてもの穴埋めができるケースを紹介します。

 「ルフィグループ」はフィリピンに拠点を置きつつ、高額報酬の闇バイトと称してインターネット交流サイト(SNS)を通じ日本国内の実行役を募っていました。

 すでに約70人が検挙されているものの、警察当局はほかにもグループの幹部や実行役が逃れているとみて捜査を続けている状況です。

 特殊詐欺とは、被害者の親族や公共機関の職員等を名乗ってクレジットカードや現金をだまし取る犯罪行為のこと。具体例としては、電話で親族を騙り現金をだまし取る「オレオレ詐欺」や、警察官や銀行協会職員のふりをして暗証番号を聞き出したうえでキャッシュカードを搾取する「預貯金詐欺」、有料サイトの利用料金と称してメールやはがきを送り金銭を振り込ませる「架空料金請求詐欺」などがあります。

警察庁が把握した特殊被害の件数は2012年の8693件から、22年には1万7520件と倍増しています。被害総額は2014年の565.5億円が直近のピークでその後は減少傾向にあったものの、22年は前年比28.2ポイント増の361.4億円と8年ぶりに増加に転じました。被害が深刻化している背景としては、詐欺のターゲットになりやすい高齢者が核家族化により一人暮らしをするようになっている社会状況や、コロナ禍で増えた在宅時間を狙われるケースの増加などがあげられます。2022年の特殊詐欺1件あたりの平均被害額は202万円と高額で、中には数千万に上るケースもありますが、実行役である末端の「出し子」「受け子」は十分な資産を持っていないことから、犯人が捕まって損害賠償を請求しても、支払いを受けられる見込みは低く、実質的に泣き寝入りを余儀なくされている現状です。

さらに詐欺被害には、原則として税務上の救済措置も用意されていません。不測の事態に遭った時に適用できる所得税の雑損控除も適用外です。雑損控除の対象は、

①地震や風水害といった自然災害

②火災・爆発のような人為的な災害

③害虫などの生物による被害

④盗難・横領による損失

と多岐にわたっているものの、詐欺による被害は救済対象から外されています。

 実際、特殊詐欺の代表例である「オレオレ詐欺」の被害者に対し、2011年の国税不服審判所の採決は雑損控除を認めませんでした。犯人の指示を受けて振込送金したことが「被害者自身の意思によって行ったもの」として、雑損控除の対象となる「災害」「盗難」「横領」のいずれにも当たらないと判断されたのがその理由です。以来、国税庁のタックスアンサーでも「詐欺による損失は対象となりません」と明記されるようになりました。

 しかし、国税庁や警察庁の見解を紐解きますと、詐欺事案でも例外的に雑損控除が適用できるケースがあります。

 まず、特殊詐欺の一つである「キャッシュカード詐欺盗」は雑損控除の対象となります。キャッシュカード詐欺盗とは、犯人が警察官や銀行協会、小売店従業員などを装い「キャッシュカードやクレジットカードが悪用されている」などと説明してカードそのものを盗み取る手口です。この手口による行為は警察庁は「詐欺」ではなく「盗難」にあたると分類しており、国税庁も「警察が出す被害証明書があれば、確定申告で雑損控除を受けられる」としています。

 雑損控除の申告に必要な被害証明書は銀行を通じて警察に請求すれば受け取ることが可能です。被害証明書が確定申告の期限に間に合わない事情があるのなら、期限内に被害額を申告しておけば後日の提出でも控除を受けられます。

 また、クレジットカード情報を専用機器で盗み取る「スキミング」についても詐欺ではなく盗難にあたるとして雑損控除の適用対象となっています。スキミングの事例としては、銀行職員や警察官、販売員などを装って専用機器に被害者のカードを挿入させて情報を抜き取る手口や、不正にATMと専用機器を連動させて入力情報を抜き取る手法などがあり、盗み取られた情報はカードの偽造に使われます。このスキミングの被害についても国税庁は「被害証明書があれば雑損控除の対象になる」としています。

 詐欺に遭ってしまうと、原則として損害金が返ってこないうえ、税金上の救済すら受けられない事態に陥ってしまいますが、状況次第ではこれらのように雑損控除の適用対象になりえます。

 万が一、自分自身や家族が被害者になってしまったときは、あきらめずせめてもの救済を受けてください。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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