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 マイナ保険証は、現在の紙又はプラスチック製の健康保険証を廃止して、マイナンバーカードを保険証として利用するものです。カード裏面のICチップに搭載された電子証明書を医療機関にあるカードリーダーに読ませ、顔認証又は暗証番号の入力で本人確認し、患者の資格情報等を確認します。マイナ保険証はすでに稼働しており、患者側が個人情報の共有に同意すると医療機関側も情報を確認でき、国はデータを基に、より良い医療の提供につながるとして、今年の秋までには今の健康保険証を廃止する方針です。

 ですが、マイナ保険証をめぐっては、今までずっとトラブルが続いています。他人の口座への誤入金や別人の医療情報が誤って紐付けられたり、自己負担割合を間違えたり、資格確認ができずに10割負担を強いられたりといったケースが多数報告されています。協会けんぽでは、約40万人分の資格情報が紐付けされていないというミスも発覚しています。別人の情報が登録されてしまいますと、その情報を基に患者の取り違えが起きたり、飲んではいけない薬を飲んでしまったりといった、人の命や健康に直接関わる重大な問題に発展する恐れがあります。

 一昨年6月に閣議決定した「骨太の方針2022」では「保険証の原則廃止を目指す」と明記されましたが、厚生労働省はこれまで「現行の保険証も利用できる」との認識を示していました。ところが、河野太郎デジタル相は一昨年10月、カードと健康保険証の一体化に向けた取り組みを前倒しするために、保険証を「廃止」するとして、その期限を今年の秋としました。

 河野氏は「なりすましや使い回しが現に起きていて、それなりの被害になっている」として、マイナ保険証にすることで不正利用が減るメリットを強調しています。しかし実際は、厚労省のデータによると、市町村国民健康保険(国保)では2017年から22年までの5年間で50件のなりすまし受診や健康保険証券面の偽造などの不正利用が確認されているにすぎません。数千万人規模の加入者がいる国保で、1年あたり10件が「それなりの被害」と言えるのでしょうか。

 岸田首相は去年8月に行われた記者会見で「廃止時期の見直しありきでない」と、あくまでも今年秋の健康保険証の廃止に固執しました。一方、カード未取得者などの保険証代わりとなる「資格確認証」は申請を必要としない考えを表明。有効期限を「5年以内」で延長可能とする方針を示しています。しかし、こうした方針に対して「現行の健康保険証と変わらない」「廃止しなければ済む話」との批判が出る始末です。

 ここで疑問になるのが、政府はなぜこれほど健康保険証廃止を急ぐのかということです。政府の「デジタルガバメント実行計画」(2020年12月閣議決定)では、マイナ保険証を皮切りに、医療や介護、労働分野にとどまらず、運転免許証など各種資格から、果ては図書館の利用券まで、各種カード類の一本化を進め、最終的に「唯一」の身分証明書としていく計画です。デジタル庁が去年の6月に公表した「デジタル社会の実現に向けた重点計画」でも、「運転免許証とマイナンバー一本化」「介護保険証のペーパーレス化全国実施」「在留カードとの一体化」「年金情報との連帯強化」「死亡相続手続きのデジタル完結」などの文言が記載されています。

 そしてマイナンバーカードを集約化させる政府の最大の目的が隠されています。財務官僚にとって、今マイナンバーがトラブルになろうがそんなことは知ったことではありません。マイナンバーによって国民の財産、強いては富裕層に対する資産の把握が真の狙いであることは明白です。

 すでにマイナンバーカードを利用した資産把握に向けた動きは進んでいます。

 2021年10月から全国の国税局・税務署で預貯金等照会業務のデジタル化サービスである「ピピットリンク」がスタート。NTTデータの実証実験によって、国税庁と金融機関双方の業務効率化効果や業務フローを検証した結果、一定の業務効率化が確認されたため導入されています。

 これまで税務署はターゲットがどこの銀行に預金口座があるのかを事前には知ることができませんでした。税務署が知りたいのは帳簿から除外している口座や個人的に使っている口座であり、それを見つけられれば、売上除外などの故意を認定して重加算税を賦課することができます。もしマイナンバーカードの一体化で国民の金融資産を正確に把握できるようになれば、税務調査が大きく様変わりします。

 政府はマイナンバーカードに交通系ICカードやクレジットカードと同等の機能を持たせ、支出や移動履歴、病歴などのあらゆる個人情報を集約することを目指しています。それにより税務署や役所はマイナンバーを使って国民の納税状況や保険給付を把握、管理していくことになります。健康保険証の廃止はその序章にすぎません。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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