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 インボイス制度はどの納税者に対しても煩雑な処理を要請するものですが、中でも高速道路の電子料金収受システム(ETC)については、金額が小さいのに利用頻度は高いため、各高速道路会社からインボイスに当たる利用証明書をダウンロードして保存する手間など、事務負担が大きいことが指摘されていました。このため、インボイス制度がスタートする直前に、国税庁はETCに関するインボイスの保存要件を大きく要件緩和しました。

 具体的には、ETCの利用回数が多いなど、利用証明書の取得が困難な事業者について、クレジットカードの利用明細書と、それに併せて高速道路会社ごとに任意の一取引の利用証明書をダウンロードして保存すればインボイスの保存要件を満たすこととされました。クレジットカードの明細でETCを利用した年月日や支払金額、そして支払先の高速道路会社がわかります。その後は、高速道路会社ごとにどれか一枚利用証明書を見せてもらえば、登録番号などもわかりますので、全部保存しなくてもOKとするものです。

 ただしクレジットカードの明細を見れば、取引内容がわかるのに、その明細だけではインボイスの保存には当たらないとされています。この理由は単純で、クレジット明細は、自分にサービスなどを提供する支払先が交付する書類ではなく、そして登録番号なども記載されていないからです。インボイスは国税庁に登録した課税事業者である事業者の請求書を意味しますので、当然に支払先が交付すべき書類とされています。

 こういうわけで、ETC取引について、どれか1枚、利用明細書の保存は必要になるものの、原則としてクレジットカードの明細の保存で問題ないとしたこの特例は、インボイス制度の大原則に違反しており、消費税法違反と評価されるものです。このような取り扱いを税務当局が許すのは、ETC取引の煩雑さというよりも、税務調査で細かくチェックする気持ちが税務当局にはないからでしょう。それに加えて高速道路会社は大手企業ですから、ETC取引について不正取引が行われるようなリスクもほとんどないため、調査する実益も高くありません。

 法律上のインボイスに係る義務は厳格ですから、厳密には法律に違反しているとしても、このような要件緩和は望ましいものです。取引回数が多くかつ1件当たりの金額の小さな取引はたくさんあり、これらについても税務当局はほとんどチェックしないでしょうから、実益を踏まえてETCと同じような要件緩和が望まれます。

 取引の事実関係はクレジットカード明細で確認できるわけですから、取引先の登録番号を確認しさえすれば、クレジットカード明細でインボイスの保存にかえられる措置について、税制改正で検討すべきと考えます。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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