32094896_m

 近年、相続税の財産評価基本通達総則6項、通称「総則6項」をめぐる判決が相次いで出されています。同項を巡っては、適用基準が明文化されていないことから、納税者と当局の間で争いの種になってきましたが、近年の複数の判決によって、その適用基準がある程度明らかになってきています。

 総則6項は、相続財産を評価するにあたってのルールを定めた法令解釈通達の総則において、「通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価すると規定されています。

 規定の通り、その適用基準は、「著しく不適当」としか書かれておらず、明確な基準があるわけでもありません。そのため、納税者が行った税務処理が「著しく不適当」であるかどうかで、国税当局と納税者が対立する例が度々起きていました。

 対立が司法の場で争われるケースも複数あり、それらの裁判例でも、個々の事情により司法判断がされてきました。

 ただ、複数の裁判例が積みあがる中で、その基準の輪郭がぼんやりとではありますが、見え始めてきています。

 総則6項関連の判決の第一弾ともいうべき事例が、2021年4月に下ろされたタワマン節税を巡る最高裁判決です。高齢者の被相続人がマンション2棟を購入し、相続人が通達の評価ルールに従って両マンションを評価して申告したところ、当局は総則6項を適用し、当局が再計算した評価額と、納税者が主張する通達評価額との隔たりは約9億円にもおよびました。この事例で、最高裁は「評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するとして、当局の主張を認めました。

この判決により、当局は勢いづいて、それまで年1,2件だった総則6項の適用件数が翌年には年間10件ほどに跳ね上がりました。

 ですが、この判決で注目すべきは、判決そのものよりも「時価と評価額の著しい乖離のみでは、総則6項を適用する合理的な理由にならない」との基準が示されたことです。この点が重視されたのが、2024年8月に判決が下された「仙台薬局事件」です。

 この事件では、被相続人が自社株売却によるM&Aを進めていたところ相続が発生。

その後、契約通りM&Aの契約が締結され、相続人が通達に従って自社株を評価して申告したところ、当局は総則6項を適用してこれを否認しました。

 納税者が申告した自社株の評価額と、当局が再計算して出した評価額には、約10倍の乖離がありましたが、判決では「時価と評価額に著しい乖離があるものの、一連のM&Aには租税回避行為の意図が認められないとして総則6項の適用を否定しました。

 さらに今年に入っても、東京地裁で1月17日に下された判決では、総則6項の適用が退けられました。この事例では。被相続人から受け継いだ自社株について、通達で認められている評価方法のうち、類似業種比準方式と純資産価額方式の併用方式で申告したところ、当局は純資産価額方式のみで評価すべきと否認しました。

 当局は裁判で、相続直前に行われた新株発行によって相続税額が約49%減少したとして、いわゆる「株特外し」や「比準要素数1の会社外し」と呼ばれるスキームを使ったことが相続の公平を損ねていると主張。しかし地裁判決は、「評価方法が異なれば、評価額に違いが生ずるのは当然」として、そもそも自社株の評価方法として併用方式の選択を認めているのだから租税負担の公平に反するということはできないと判示しました。ところが、6月19日に下された高裁判決では一転、当局側の主張が全面的に認められました。事実認定については地裁と変わらないにもかかわらず、判決では「株特外し」や「比準要素数1の会社外し」と呼ばれるスキームを税逃れと認定し、総則6項の適用を問題なしとしています。

 これら複数の裁判例から推し量れる現行の判断基準は、1つ目に「時価と評価額の著しい乖離」だけでは適用基準を満たさないということ、そして2つ目に「租税回避の意図」が明らかになっていると認められる可能性が高いということです。特に裁判においては、相続税対策のために何らかの作為があったと認められる「物証」が大きく左右するとみられます。

 タワマン節税を巡る裁判では、納税者が借入を申し込んだ際の銀行の内部稟議書に「採上理由」として相続税対策のために不動産購入を計画している旨が記載されていた点が影響し、総則6項が認められたともいわれています。

 今年6月の東京高裁判決でも、「株特外し」や「比準要素数1の会社外し」などの自社株評価額の引き下げスキームについて、提案した証券会社との複数にわたる打合せメールの存在が、判決の方向性を決定づけたことがうかがわれます。

 こうした裁判例を踏まえれば、銀行の稟議書のようなタックスプランニングを計画した文書やメールは、総則6項の適用を後押しする有力な物証になることがわかります。そこまでいかなくても、余命告知後や相続発生直前の借入金、相続発生直後の資産売却なども、租税回避行為を示す状況証拠として見られやすくなります。

 裏を返せば、相続税対策を長期的に行い、財産の取引について経済合理性を確保すれば、たとえ裁判にまでもつれこんでも、そうそう総則6項の適用は認められないということになります

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

「所長の独り言」一覧はこちら

 

免責
本記事の内容は投稿時点での税法、会計基準、会社法その他の法令に基づき記載しています。また、読者が理解しやすいように厳密ではない解説をしている部分があります。本記事に基づく情報により実務を行う場合には、専門家に相談の上行うか、十分に内容を検討の上実行してください。当事務所との協議により実施した場合を除き、本情報の利用により損害が発生することがあっても、当事務所は一切責任を負いかねます。また、本記事を参考にして訴訟等行為に及んでも当事務所は一切関係がありませんので当事務所の名前等使用なさらぬようお願い申し上げます。