公正証書遺言の作成の際には、公証人役場まで出向くわけですが、財産の額に応じて数万円~数十万円の作成手数料が必要になります。それでも法的な不備が発生するリスクがなくなるというメリットは大きいと思います。原本は公証人が保管し、遺言作成者は手元にコピーを保管するだけなので、仮に遺言者が紛失してしまっても問題はありません。
公正証書遺言を残す人は10年前には7万人前後でしたが、平成26年には10万人に増えております。
私の経験でも、自筆証書遺言により相続人がもめたケースがありました。
被相続人には、配偶者と子供がおらず、親も既に亡くなっております。
兄妹とは仲が悪く全財産を、面倒を見てくれた方に相続させたかったようです。
しかし、被相続人の後見人であった弁護士によって家庭裁判所で検認を受けた自筆証書遺言書をみてみると、財産の一部しか記載されておらず、書き漏れていた預貯金と不動産があることがわかりました。
しかも、被相続人が生前、高齢による認知症であったことから判断能力がない状態で自身に都合のよい遺言書を書かせたのではないかと裁判を起こされ、今も財産は未分割の状態です。
遺言書を残す大きな目的は、特定の財産を特定の誰かに遺すこと、そしていわゆる「争族」の発生を可能な限り防ぐことにあります。しかし、相続人のうち誰かが特定の財産を受け取ると、他の相続人が不公平に感じることがあり、ふたつの目的を同時に実現するのは容易ではありません。残される人のためを思って残した遺言書が後々トラブルを生むことにもなりかねません。
遺言書で法的効力が発生するのは、相続分の指定や遺産分割の方法の指定、子供の認知などの民法で定められた「法定遺言事項」に限られております。
これに対して、遺言に記しても法律上の効力が発生しない項目を「付記事項」といいます。
付記事項として、残される人への感謝の気持ちやどうして遺言のような財産の分け方を望むのかといった理由を書き込めば、法的効力がなくても遺産分割がスムーズに進み、相続人同士の争いの芽を摘むことにもなります。
家庭裁判所に持ち込まれる紛争の7割以上は、相続財産が5千万以下の家庭のものです。相続税の心配がない家庭でも争いは起こってしまいます。経営者の相続では、分けにくい財産の代表格である自社株が絡みます。遺言書がトラブルの火種になることがあるとはいえ、遺言を残さないことがリスクになることは肝に銘じ。基本を必ず押さえるようにしておきたいものです。