第640話 納税義務
来月には、所得税と消費税の納付額が私の口座から引き落としされます。この負担感こそが、納税義務についての地に足がついた実感であり、まさに納税義務こそが民主主義の基本と言われるところです。
これに対して賃貸不動産をお持ち以外の一般のサラリーマンの方々は、個人事業主に比べあまりに税金を意識する機会がなさすぎる気がします。消費税は意識するかもしれませんが、数十万円単位や数百万円単位の納税は、幸運にも多額の相続財産が手に入る場合を除き、意識しないでしょう。
それは税務職員も同じです。
民主主義の基本は納税の義務ですが、多額の納税を一度も経験したことのない税務職員が、納税者に対して「納税の義務」を説教する不思議。
それが税務調査の場面になるのでしょう。
しかし事業経営者や中小企業の経営者たちは、自由意思に基づき、自分に不利益な事柄を税務署に申告し、納税するという申告義務を果たしています。まさに、教会の懺悔と献金に匹敵する正直さが基になっているのが自主申告制度です。
事業経営者は、本当のところ、脱税しようとすれば容易に実行可能ですが、「税務調査があるから」という理由を超えて、皆さん、まじめに所得税額を申告しています。これは、まさに人間として褒め称えるべき倫理の基準でしょう。
社員が独立し、事業経営者になることを推薦している体脂肪計メーカーのタニタ。そこで事業経営者を選んだ社員がインタビューに答えています。「1年目、収入はかなり増えました。ただ増えた分、住民税と国民健康保険料の負担がかなり大きくなったのには驚きでした。そういう税金・社会保険はこれまで天引きされていて、自分自身で払っている感覚もなかったので、余計リアルに感じた面もあります。」
大抵のサラリーマンの方々は、事業経営者は脱税しているといった誤った感覚をお持ちです。ですが、もし税務職員とサラリーマンの方々に自主申告を認めたら、正直、事業経営者とは比較にならないほど多数の脱税事案が出現すると思います。税法を知っている税務職員ならなおさらです。
納税義務は、民主主義の基本です。事業経営者の倫理観の在り方が、この日本の社会の基軸を作っていることを自覚し、今後も倫理の基準を実践していきたいと思っています。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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