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 今年3月18日に公表された公示地価では、地方圏がバブル期以来28年ぶりとなるプラスに転じるなど、昨年から引き続き好調な水準を記録しました。しかし今回の地価には、2月以降に国内で流行している新型コロナウイルスの影響が反映されていません。未曽有の経済危機である「コロナショック」によって、今後地価が下がっていくことは十分に考えられます。過去に例のない感染症の流行による地価下落に対して、資産家はどのように相続対策を講じるべきなのでしょうか?

 国交省が公表した2020年の公示地価は、全国平均で前年比1.4%のプラスとなり、5年連続で上昇しました。伸び続ける三大都市圏と地方中枢都市だけでなく、それ以外の地方圏も28年ぶりにプラスに転じるなど、近年続いてきた上昇トレンドが地方にも波及しつつある形です。

 しかし、都内の不動産業者達は「今年は喜ぶ心境ではない。新型コロナウイルスの影響で、今後地価がどれだけ下がるのかを考えると、暗い気持ちになる」と表情は曇り気味です。

 毎年3月に公表される公示地価は、その年の1月1日時点での土地の価格を示したものです。そして新型コロナウイルスが国内で流行し始めたのが2月に入ってから…

つまり今回発表された高水準の公示地価には、新型コロナウイルスの影響が全く反映されていないことになります。

 新型コロナウイルスが流行し始めてからというもの、皆様ご存じの通り、街からは海外観光客が消え、日本人でさえ往来が激減し、観光地には閑古鳥が鳴き、飲食店の客足は遠のいています。不動産投資市場への影響も大きく、不動産投資信託の指数も急落しています。

 急落しているのは、株価も同様で、個人消費は激減しています。新型コロナウイルスの影響下で倒産した国内企業が増え続ける中で、今後、景気がさらに冷え込むのは確実です。これまで安倍政権下での株高基調を背景に地価が回復してきたことを思えば、地価も今後下がることが容易に予想されます。

 2011年の東日本大震災では、被害を受けたエリアの地価が、半年で10%以上下落しました。

 新型コロナウイルスが経済に与える影響は東日本大震災をしのぐとも言われますが、震災と大きく異なるのは、ウイルスは土地そのものにダメージを与える災害ではないということです。震災で被害を受けた地域では、建物が崩壊し、津波で多くの家々が流されました。そのため震災後は津波リスクが高い沿岸部で特に地価が下落し、その傾向は今日まで続いています。

 一方の新型コロナウイルスは、いまだ終息の時期が見えないとはいえ、感染者の発生した土地に今後数年にわたって影響を及ぼすというものではありません。そのため、地価に与える影響も震災ほど直接的なものではなく、また後を引くものでもありません。しかし、既にコロナウイルスショックが数カ月に及び、現時点でも経済に深刻な打撃を与えていることを思えば、やはり地価に与える影響は大きいと言わざるをえません。

 また資産家にとって懸念されるのが、今後起こりえる相続への影響です。3月に公表される公示地価は様々な土地評価の基礎となるもので、特に7月に発表される相続税路線価は、公示地価のおおよそ80%程度になると言われております。そして相続税路線価は、相続財産としての土地を評価する算定基礎となる値段です。

 仮に、今回の公示地価を基に相続税路線価が決定されたとなると、2月以降のコロナショックによって土地の実勢価格は大きく下がっているにもかかわらず、路線価では、「コロナ前」の評価で高止まりしているということも考えられます。

 同様の問題は2011年の東日本大震災の際にも起きていまして、震災発生後に公示地価が公表されましたが、その評価は1月1日時点のものであったため、実際には土地が使い物にならなくても評価上では震災前の価値が適用されるという事態が生じました。そこで国は、被災地については「被災後の時価」で判定するという特例を講じて、被災地の土地オーナーたちを救済しております。しかし、前述の通り、新型コロナウイルスは、震災ほど直接的に土地に損害を与える災害ではないため、大震災と同様な救済策が講じられない可能性は十分にあります。

 参考までに、地価公示後の土地の下落を巡って納税者が「下落後の時価で評価すべき」として国税当局と争った事例を紹介します。

 この時は、納税者が訴えた土地は公示後に22.4%下落していましたが、それに対して国税不服審判所は、「1年間の地価変動に耐え得ることなどを考慮して公示地価の80%で評定している」と訴えを退けています。

 もちろん地価下落がよほど著しいなら何らかの措置が講じられるかもしれませんが、あくまでも希望的観測にすぎません。

 地価の下落が予想される中で土地をどう処分・利用するかという対策に加えて、不測の事態が起きた時に備えて、納税資金対策も今一度考えておく必要がありそうです。

 

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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