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 2018年に成立した改正民法の柱である「配偶者居住権」が、今月から施行されています。親族と折り合いが悪く、相続で家かその他の財産かの二択を迫られる配偶者を救済すべく生まれた新制度ですが、円満な家族でも同制度を使うことで相続税を大きく減らせる可能性があります。ただし使い方を間違えば、不要な税負担を生むことにもなり、使い方と注意点を確認してみましょう。

 配偶者居住権は、約40年ぶりとなる相続民法の改正によって新たに生まれた制度です。これまでの制度では、遺産分割協議書で配偶者が自宅を得るとそれだけで法定相続分を満たしてしまい、預貯金といった他の相続財産を十分と相続できない可能性がありました。逆に預貯金を相続すると家を失うことになってしまい、どちらにせよ生活は不安定にならざるをえません。

 そこで今回の改正民法では、所有権が他者にあっても配偶者が住み続けることができるように、家の価値を「所有権」と「居住権」に切り離し、配偶者はこのうち居住権だけを相続すれは家に住み続けることができる「配偶者居住権」を創設しました。

 居住権を相続した配偶者は、居住権の評価額に応じた相続税を課され、居住権の評価額は、建物の残存耐用年数と配偶者の平均余命を基に計算されます。配偶者が高齢であるほど安くなるように設定されますので、原則として、配偶者の年齢が高いほど居住権の評価額が下がり、逆に所有権の評価が上がります。逆に配偶者が若ければ居住権の評価が高くなり、所有権の評価が低くなる仕組みです。

 この新制度が目的としているのは、子と仲の悪い配偶者の救済です。仲の良い家族であれば、わざわざ居住権を設定しなくても、家を相続した子が親を住まわせれば生活に不安はありません。家族円満といかない配偶者の権利を保護したのが今回の法改正ということになります。

 しかし円満な親子でも同制度を活用すべき理由があります。

 居住権を相続した配偶者が将来的に死亡しますと、その時点で居住権は消滅します。この時、所有権を持つ子などに居住権が引き継がれることはありません。相続税法基本通達では、「配偶者から建物等所有者へ移転し得る経済的価値は存在しないと考えられる」と記載されています。つまり、死亡による配偶者居住権の消滅には税金が課されないことになります。

 例えば、父親が死亡して相続税評価額5千万円の自宅が残されたケースでは、所有権3千万円と居住権2千万円に分割して子と母がそれぞれ相続したものとします。将来的に母も死亡すると、その時点で居住権は消滅しますので、子には相続税は課されません。父親から相続で所有権を得た自宅はそのままです。結果を見ると、子は5千万円の自宅を3千万円分の税負担で手に入れることになります。もちろん父の相続の時点で、配偶者に居住権の分だけ相続税は課されていますが、配偶者控除などを組み合わせれば税負担はかなり減らせます。父と配偶者の2度の相続におけるトータルの税負担を考えますと、配偶者居住権を設定しておくことで相続税を大いに節税できる可能性があることになります。

 ただ注意点として、相続税対策となり得るのは配偶者が死亡した時ということは覚えておかなければなりません。それ以外の理由で居住権が消滅した場合には、様々な課税関係が生じることになります。

 例えば、配偶者が相続した居住権を放棄した時には、所有者はその時点で居住権の分だけ経済的利益を得たとして、贈与税が課されます。これは両者の合意によって居住権が解除されても同様です。

 では、居住権の消滅に伴い正当な対価を支払えばよいのかというと、それだと配偶者に譲渡所得税が課されることになります。結局、配偶者の死亡以外の居住権消滅には、何らかの税金がかかることになります。

 例外として、長期配偶者居住権は、期限を設定して相続することができ、期限到来に伴い消滅する場合には課税関係は生じません。しかし、期限が短ければそれだけ居住権の評価は下がるので、節税効果も減じることになります。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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