第644話 質問応答記録書
近年、税務調査でよく署名捺印を求められる資料に「質問応答記録書」があります。これは刑事事件での取調調書のようなもので、税務調査で不審な取引があったようなときに、調査官が事実関係を明確にするために作成する記録です。この資料は、調査官が作成した後に内容の確認をさせられたうえで署名押印を求められます。このような資料は、後に重加算税を課税したり更正処分がなされたりする際、重要な証拠になります。
そのため、仮に署名押印を求められた際には、きっぱりと断るのが王道的な対処となります。実際、署名押印があるとその記載内容が正しいと審判所や裁判所も認めることが非常に多いからです。仰々しい書類ですので署名押印の拒否はできないと思う方も多いのですが、そんなことはありません。この点は、国税の内規にも明確に書かれていますし、調査官としても拒否したことにより無理強いされることはありません。
ですので、署名押印は断るべきですが、ここで押さえておきたい裁決事例があります。この裁決事例の質問応答記録書では、家族名義の預金について、国税から相続財産になり得るという説明を受けたということだけが記載されていたのですが、この程度の記載では信用性が認められないと判断されました。つまり、仮に国税に質問応答記録書が作られたとしても、記載内容に信憑性が認められない場合には、証拠に取り上げられないこともあります。
実際、国税の内規においては、質問応答記録書の作成に当たっては、「単に説明を受けた」という事実を記載するだけでは足りず、調査官が説明をした具体的な内容や、その説明を受けての納税者の具体的な回答を固有名詞なども含めてできる限り発言そのままに、一門一答形式で詳細に記載する必要があるとされています。その理由は、できる限り臨場感をだすことで、質問応答記録書の信憑性を高めるためです。
なお、この事例の納税者は高齢者で、あまり税や法律の知識がないこともあって、質問応答記録書にとどまらず悪名高き上申書を提出させるなど、調査官がかなり身勝手な調査をしたことがうかがえます。おそらく、その調査官は調子に乗って、慎重に作成するべき質問応答記録書において、上申書もあるので証拠としては問題ないと手を抜いて作成したのでしょう。滑稽なことに、この上申書には国税に極めて有利な内容が書かれていたのですが、法知識に乏しい納税者がこのようなことを知っているのは不自然であり、信憑性に欠けると審判所から判断されています。調査官が下書きして書かせたのでしょうが、見えないところで未だにこのような違法調査が行われていることも押さえておきたいところです。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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