第666話 志村けんさんのご冥福をお祈りします
タレントの志村けんさんが亡くなったのは、新型コロナウイルスに罹患して発熱や呼吸困難といった症状が出始めてから、わずか10日後のことでした。志村さんにとっても家族へのメッセージを残す時間が足りなかったでしょう。
こうした新型コロナウイルスの進行の早さが周知されるにつれ、だれもが家族に伝えるメッセージとして「遺言」を見直す動きが増えつつあります。志村さんのように、もしものことがあれば、改めて周囲にメッセージを残す時間がないことも考えられます。その万が一が自分にも起きるかもしれないという緊張感が遺言を見直す、あるいは新たに作成するという動機につながっているようです。
そもそも、満足な準備が整わないまま遺言のない相続が発生しますと、「争族」になる可能性が高まります。相続が発生したときに家族に争いの種を生まないためにも、遺言書を作り、その内容を定期的にチェックすることが求められています。そこで、考える時間が多く与えられている今の時期こそが、絶好の機会です。
実際に遺言を作るとして、ただ自分の思いを文字にしたためておけばよいというものではありません。書き記した内容がしっかり実行されるためには、遺言に法的拘束力を持たせる必要があります。
遺言の形式には自筆証書遺言、公正証書遺言など複数の種類がありますが、そのなかに「危急時遺言」と呼ばれる方式があります。数ある遺言の中でもマイナーで、平時であれば存在を意識することもありませんが、今のような〝異常事態〟にあって、注目度が高まっています。
危急時遺言とは、病気やけがで生命の危機に陥ってしまった時に、時間がない中で遺言を残す方法です。ベッドの横に立って遺言を聞き取るイメージですが、その法的なハードルはなかなか高くなります。まず家族などの相続に関する利害関係者を除いて3人の証人が立ち会い、遺言を正確に聞き取って書き写したうえで、遺言者に読み聞かせて内容を確認するといった手順を踏みます。その内容の正確性が後から問題になる事もありますし、そもそも既に意識が失っていると、遺言の作成自体が不可能となります。要件だけを見れば、ハードルはむしろ通常の遺言より高く、それしかないという事態になれば利用を検討すべきですが、できれば他の方法で遺言を残しておく方が望ましいでしょう。
遺言を残す方法として最も確実なのは、公正証書遺言です。役場で公証人の立ち会いのもと遺言を作成するもので、その内容を第三者が保証するため、内容が書き換えられたり遺言を隠されたりする可能性がなくなります。とはいえ、このご時世、外出自粛の状況下で、「三密」になりかねないような方式はなるだけ避けたいのが人情です。
そうなると、残るは自筆証書遺言です。自分で紙に書いて印鑑を押せばよく、財産目録はパソコンなどで作成しても認められます。重要なのは日付を入れること、署名を忘れないこと、きちんと封をして自由に中身を見られないようにすることで、他の方法よりも簡単で、何よりも自宅で自分だけで作れるのが魅力です。
もっとも、法的要件を満たしているかどうかのチェックは自分自身に委ねられているため、念には念を入れて確認しておかなければなりません。この自筆証書遺言が法的効力を持つには、家庭裁判所で開封して内容を確認する「検認」が必要となります。検認前に開封してあると効力を失ってしまうため、封筒に「開封厳禁」と但し書きをしておいたり、家族に確実に言い含めたりしておくなどの対策が必要です。
感染者が日々増え続ける中で何とも気が塞ぎこみがちになりますが、こんな時だからこそ子供たちの明るい未来を思い描いて、前向きな気持ちで家族へのメッセージを作ってみてはいかがでしょうか。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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