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 今年になり若い有名人の死が相次いでいます。逆縁(親が子を弔うこと)の不幸はTV画面の向こうの世界の出来事ではなく、誰の身にも降りかかるものです。子が親より先立つことは一般人の間でも珍しいことではありません。

 現役世代の子が親より先に亡くなった時の相続の問題は他人事ではありません。

 ここで子が親より先に亡くなった時の民法上の相続順位と相続分について確認してみましょう。

 

 第一順位=配偶者(1/2)、子(1/2) ※既に死亡している子については孫が子の代わりに相続します(代襲相続)。

 

 第二順位=配偶者(2/3)、父母(1/3) ※両親が既に死亡しているのなら祖父母に相続します。

 

 第三順位=配偶者(3/4)、兄弟姉妹(1/4) ※兄弟姉妹が全員死亡しているなら甥姪

 

 子に妻や夫、子(親の孫)がいれば彼らが相続人になりますが、昨今の現役世代の未婚率を考えますと親が相続人になる事も十分あり得ます。

 今年7月に俳優の三浦春馬氏がお亡くなりになりましたが、彼は独身なので財産は親が相続することになります。ただ、三浦氏の母親は、彼の実父と離婚した後、別の男性と再婚しておりますのでこの再婚相手と養子縁組がされているかどうかで相続税額に差が出てきます。もし、再婚相手と養子縁組をしていたら継父も相続人に加わるので、実父、実母、継父の3人で遺産を分け合うことになります。法定相続人が増えることにより、相続税の基礎控除額も600万円増えることになります。

 なお、週刊文春によれば三浦氏は生前「両親に対して頭に来たから、籍を抜いてきた」と友人に語ったそうですが、戸籍と相続権の有無は別問題です。欠格や廃除、相続放棄がないなら戸籍を抜いても相続権は失われません。

 親より先に子が亡くなると一部の相続対策が無駄になるほか、少し複雑な事態になります。

 遺言書の多くは配偶者や子に向けたものです。子が親に宛てた遺言書はほぼありません。重大な病気を患っているときなどを別にすると、親が子より先に亡くなるのが一般的だからです。

 もし予想外に子が親より先に亡くなったなら、親は遺言書を見直す必要が生じます。受遺者として指定した相続人が遺言者より先に亡くなると、亡くなった相続人宛の遺言は効力を生じません。亡くなった子の子、つまり遺言者の孫が存在していたとしても遺贈の代襲相続は原則認められません(平成23年23年2月22日最高裁判決)。無効となった部分は再度遺産分割の対象となります。争いを防ぐなら代襲相続を含めた予備的な遺言をしておくか、早急に作り直すかのどちらかが必要となります。 

 亡くなった子が生前、別生計の親に行っていた資金援助は生前贈与にあたります。年間110万円以下であれば贈与税はかかりませんが、遺産分割の場面で特別受益として扱われます。子から資金援助を受けていれば、その分だけ親の相続できる財産は減るかもしれません。また、子の死亡日以前3年間に受け取った財産は生前贈与加算として相続税の課税対象になる点にも注意が必要です。なお、三浦氏は親によくお金を無心されていたようです。もしこれが本当なら特別受益をめぐって遺産分割でもめる可能性があります。

 死亡保険金の契約は親子間だと大抵親が契約者兼被保険者、子が受取人です。もし子が親より先に亡くなった後、受取人の再指定が行われなければ子の法定相続人が新たな受取人になり、被保険者の死亡時に保険金を均等に按分して受け取ることになります。では、父一人子一人の世帯での死亡保険金で、未婚の子が受取人のケースではどうなるのでしょうか。このケースでは親ではなく、親の両親や兄弟姉妹といった親族関係者が新たな受取人になります。 親族関係者がいなければ、死亡保険への加入自体に意味がないので解約になるのが一般的です。ただ放置しておくと死亡時の保険金が予想外の人の手に渡る可能性があるので、早急に再指定を行った方がよいでしょう。

 逆縁は次のような直系尊属から直系卑属に財産が移ることを条件とした贈与税の制度にも影響します。

 

①相続時精算課税制度

②教育資金の贈与税の非課税措置

③結婚・子育て資金の贈与税の非課税措置

 

この3つの制度は非課税額の大きさが魅力です。ただ、受贈者が先に亡くなると課

税関係が少し複雑になります。

 まず①ですが、受贈者が贈与者よりも先に亡くなると、相続時精算課税制度分の相続税の納税義務者は贈与者以外の法定相続人が引き継ぎます。贈与者が亡くなったら受贈者の法定相続人が代わりに相続税の申告を行うことになります。なお、相続人が贈与者のみならば相続税の申告・納税義務は後順位の相続人に引き継がれることなく消滅します。

 ②と③は受贈者の死亡で契約終了となっても口座残高に贈与税はかかりませんが、受贈者の相続財産として相続税が課されます。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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