第745話 『鬼滅の刃』から学ぶ相続税の基本(煉獄家の場合)
映画『鬼滅の刃』が大ヒットして興行収入歴代1位の記録を残しました。作中では鬼との格闘で次々と登場人物が亡くなるのですが、彼らの背景には現代人と相通じるものがあります。亡くなったキャラクターの状況は、現代の相続の基本を考えるきっかけになりそうです。ネタバレ部分もありますので、まだ映画を見てない方は、ご覧になってからお読みください。
最初に煉獄家の相続を見てみましょう。煉獄家の長男であり鬼殺隊の「柱」である杏寿郎さんが上弦の参の鬼との格闘で亡くなります。彼には妻も子供もおりません。親族は父と弟の2人です。この場合には、相続順位から父が長男の財産を引き継ぐことになります。
ただ気になる事は、父である槇寿郎さんはアルコール中毒になっている点です。親族なら、泥酔と暴言が日常茶飯事の彼に相続させるのは不安なものです。被相続人が相続人の地位を剥奪する「廃除」を検討する余地があります。しかし実際は、廃除にはならないでしょう。今回は偶然に逆縁の相続になったのであり、子が親の相続権を剥奪しようと考えること自体、ほぼありえません。仮に排除の請求を被相続人が生前にしていても、裁判所に認められそうにありません。
「被相続人に対する虐待や重大な侮辱、著しい非行があれば廃除になる」とされていますが、槇寿郎さんのアル中の状況は廃除せざるを得ないほどの深刻ではないからです。煉獄家では父一人で息子の財産を全て相続することになるでしょう。
杏寿郎さんは生前、弟である千寿郎をいつも気にかけていました。彼にも何か財産を遺したかったはずです。しかし先順位の父がいる以上、相続人にはなれません。弟にも財産を遺すにはどうすべきでしょうか。
まず考えられるのが「遺贈」です。遺言書に「煉獄千寿郎に○○を遺贈する」と書けばいいのです。杏寿郎さんは20歳ですが鬼狩りには死のリスクが伴います。死を意識して弟宛ての遺言書を書いていたかもしれません。このほかには、生命保険金の受取人を弟にする方法もあります。
ただ兄弟への遺贈には2割加算のデメリットもあります。遺産の取得者が故人の配偶者や一親等の血族でなければ相続税が2割増しになる制度です。生命保険金もみなし相続財産となるために加算対象です。また遺留分の問題も生じてきます。可愛さ余って全ての財産を弟に渡すような遺言をしますと、弟は父から遺留分を請求されるかもしれません。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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