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 国税庁や国税局の新年度は、毎年7月に始まります。人員転換を経て業務の引き継ぎを終え、いよいよ税務調査に乗り出すという時期が、年度開始から2~3カ月を経過した頃になります。「税務調査の秋」といわれるゆえんです。

 調査件数が多い季節は他にも確定申告期を終えた4月頃がありますが、春の調査は各部署や人員に割り振られた〝ノルマ件数〟を6月末までに達成するためのもので、数をこなすことに主眼が置かれるために1件当たりの調査期間は短く、内容も軽くなる傾向があります。それに比べて秋の調査は、しっかりと時間をかけて納得がいくまで調べられるため、納税者が特に注意すべきは秋の調査と考えて間違いありません。

 最近は新型コロナの世界的流行で、国税当局は感染リスクの高い実地調査そのものを原則自粛する対策をとりました。そこで、コロナ禍においても実地調査を行える体制がある程度確立できるようになりました。やはりそれでも例年のように踏み込んだ接触はしづらく、「量より質」、つまり一回の調査で高額な追徴税額を見込めるターゲットを狙い撃ちにする効率重視の作戦にならざるを得ません。具体的には、富裕層の海外事業、そして相続税がターゲットになるでしょう。

 なぜ相続税が狙われるのか。各税目、所得税、法人税、相続税を見てみますと、どの税目でも調査を受けたとしても4人に3人が何らかの非違を指摘され、追徴税額を負わされるという厳しい現実があります。特に所得税と相続税は、指摘率が85%と高い確率を示しています。

 両者はともに当局にとって成果を持ち帰りやすい税目といえますが、1件当たりの追徴税額を見ますと、所得税では1件当たり166万円、相続税では1件当たりの成果は641万円と所得税の約4倍と群を抜いています。つまりは、相続税はおおむね調査官にとっては割の良いターゲットといえるでしょう。

 1年間に発生する138万件の相続の内、申告書の提出が必要とされるのが11万5千件となっています。そのなかには、控除枠や非課税特例を使って税額が発生しないものも含まれますので、実際に相続税の納付義務が生じるのは8万3千件となります。これに相続税の年間の実地調査件数1万1千件を重ね合わしますと、実に相続税を納めた人の3人に1人が実地調査に入られることになります。相続税の実地調査にひとたび入られますと、その8割以上で非違を指摘され、平均600万円を超える追徴税額が課されてしまいます。

 税務調査官には件数のノルマはあっても、税額のノルマはないと言われています。しかしノルマはなくても「成績」には功績という評価が加えられますので、かなりの影響がでてきます。つまりは成績を上げたい調査官にとって、額が大きい相続税は格好の的になります。そこで彼らが狙ってくるのが、追徴税額でも最も重い「重加算税」です。

 国税通則法68条で規定される重加算税は、納税者が税額計算の基礎となる金額を隠蔽し、仮装した時に課される罰金です。納税者に故意に何かを隠したり偽装したりという事実があったかどうかが適用のポイントになります。うっかりミスなどによる過少申告加算税の最高税率が15%、無申告加算税が20%に対して、この重加算税がつきますと追徴課税の税率は最高で40%にもなります。その分、調査官にとっては〝高得点〟がつくというわけです。この重加算税を狙うあまり、納税者に対して調査官が強引に重加算税の認定を行った結果、不服申し立てをされて、国税不服審判所で処分取り消しという決定を受ける事例も過去には起きています。

 相続税は、この重加算税が課される確率が非常に高いのです。2019事業年度に相続税調査を受けて何らかの非違を指摘された9072件の内、重加算税が課されたのは1541件、割合にして17%にものぼります。つまり5人に1人が重加算税を課されている計算になります。

 もちろん重加算税は故意に財産を隠したり偽装したりした時に課される税金ですので、後ろ暗いことがないのなら何ら恐れることはありません。しかし実績狙いの調査官が無理やり重加算税を課そうとしてくる恐れもあるかもしれません。特に最近注意が必要なのが「質問応答記録書」と呼ばれる文書です。

 質問応答記録書とは、過去には「申述書」や「聴取書」などの名で呼ばれてきましたが、実質的には納税者の〝自白調書〟に近いものです。本人が署名したのだから、内容に間違いがないと当局は主張できるわけです。

 この書面を作り、納税者に「この内容に間違いありません」と一筆書かせることで、重加算税を既成事実化してしまう手法が最近出てきています。

 この〝一筆重加〟に対して納税者は、調査時にもし一筆を求められても「法律的に根拠がない」として断固として断るべきです。また同様に、調査官との会話の中では、重加算税認定につながるような「改ざん、偽造、除外、隠匿、虚偽」といった単語を不用意に使わないように重々注意すべきです。

 一度重加算税を認定されても、不服を申し立て、「一筆を強要された」と主張してとことん戦う道もあります。しかし一旦下された決定を覆すのは容易ではありません。できることなら調査段階でより良い結果を引き出すことが重要です。何より文句のつけようのない申告書を作り、調査が入る隙間を見せないことが最善と言えます。

 相続税調査は、時間的にも費用的にもコストがかさみ、大事な人が亡くなった後の心身にとって多大なストレスになります。調査を受けないよう日頃から顧問税理士とコミュニケーションを取った上での申告を心掛けることが必要です。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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