第915話 知床の遊覧船事故で考える行方不明者の相続手続き
4月23日に北海道の知床半島沖で発生した遊覧船の沈没事故では、いまだに乗客の行方が不明の方がいらっしゃいます。こうした遭難事故では最後まで安否が明確にならないことも多く、残された家族ははっきりとした証拠もないまま、大切な人の死を時間をかけて受け入れていくことになります。
生死がはっきりしない状態というのは精神的にも経済的にもつらい様々な問題を引き起こします。死亡が確定したわけではありませんので、生命保険金も受け取れず、資産を自由に動かすこともできず、遺産の相続もできないので家族の生活に支障が出かねません。
そこで法律では、ある人が生死不明の状態が続いた時には、一定の条件下で法律上は死亡扱いとするルールがあります。それが「認定死亡」と「失踪宣告」です。
「認定死亡」とは、今回の事故のように、災害や事故によって死亡したことがほぼ確実であるにもかかわらず、遺体が発見できないときに適用されるルールです。戸籍法によって定められ、警察や海上保安庁など関係する行政機関が死亡したとみなすことで、戸籍上も死亡扱いとなります。認定されるまでの具体的な期間や条件などは規定されていませんが、親族から認定の希望があるか、事故などから3カ月が経過したかなどの基準によって判断されます。その後、官公署が市区町村に認定死亡の報告を行い、市町村がその旨を戸籍に記載した日が、死亡日となり、その日が相続開始日となります。行方不明の期間は問われません。
一方の「失踪宣告」は、さらに「特別失踪」と「普通失踪」に分かれます。「特別失踪」は、事故や災害によって1年間、生死不明の状態が続いたときに、家族などの申立てにより、裁判所が死亡したと推定するルールです。例えば戦地に派遣された家族が行方不明になって帰ってこないときや、津波によって安否がわからないときなど、認定死亡よりさらに生死の判定が難しいときにこちらが適用されます。危難が去った日(事故があったときが多い)が亡くなった日となり、相続開始日となります。
これに対して「普通失踪」は、いわゆる失踪や家出によって安否がわからなくなったケースに適用され、こちらは失踪から7年が経過すれば利害関係者が裁判所に申し立てることができます。この場合、行方不明になってから7年間が経過した日が亡くなった日となり、相続開始日となります。
認定死亡、特別失踪、普通失踪のいずれかが行政機関や裁判所によって認められれば、法律上では本人は死亡した扱いとなり、相続や保険金受取りなどの手続きを進めることができます。
注意点として、認定死亡では死亡したとされた本人の生存が後から確認された場合、戸籍が自動的に訂正されます。これに対して特別失踪や普通失踪では、失踪者本人の生存が確認されても自動的には無効にならず、宣告を取り消すための裁判が必要になります。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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