第961話 「生計を一にする」を理解しましょう
確定申告期限も間近になり、この時期はどこの会計事務所も繁忙を極めていることと思います。そこで所得税の確定申告書類の記載内容の中でも、特に曖昧で誤りが起きやすい「生計を一にする」の考え方について解説したいと思います。
所得税法では、個人単位で税金を課すことを原則とする一方、その個人と共に生活している家族の状況も考慮して税額が決められます。そのために「生計を一にする」という考え方が用いられます。
同じ金額の給与収入のある方でも、家族の状況によってかかる家計の負担は大きく異なります。例えば独身で子供のいない方と、結婚して子供がたくさんいる家庭とでは、最低限度の生活費が異なることは言うまでもありません。
過去の裁判例では、生計を一にする状況について「同一の生活単位に属し、相助けて共同の生活を営み、ないしは日常生活の糧を共通にしていること」と説明されています。簡単に言うと「同じ家計の中で助け合って生活する間柄」とでも言うのでしょうか。この定義によると必ずしも親が子を一方的に養うような関係にあることをいうのではなく、また必ずしも同居を要件とするものではないことがわかります。
「生計を一にする」は、住居をひとつにしているかどうかではなく、「生計」を一つにしているかどうかで判断します。とはいえ、同居の場合は生計を一にしているものと判断されやすいのも事実です。国税庁の公式見解においても、同居をしている場合には原則として生計を一にするものとされています。
なお同居であっても、以下にあげるような、明らかに独立して生活を営んでいる状況であれば、別生計と考えられます。
- 収入や生活費の状況
家族にそれぞれ独立した収入があり、その収入で独自に生活費を負担している
- 水道光熱費や通信費の支払い状況
同居している親族それぞれの居住スペースごとにメーターや回線が分かれている、利用料に応じて家族間で実質清算されている
- 家族間での家賃の支払状況
同居している家族がその家屋の所有者である別の家族へ家賃を支払っている
- 建物の構造
二世帯住宅のように、居住スペースの構造が独立している(玄関や台所、風呂場のような主要な設備が別々に存在し、建物内で世帯間の往来ができないようなケース)
- 不動産登記の状況
親世帯が1階で子世帯が2階など、建物の所有権持分が居住スペースごとに区分所有とされている
- 住民票や社会保険における世帯の状況
住民登録や社会保険制度など、届出上の世帯が別になっている
別居をしている者同士は、基本的に生計を別にする関係と考えられます。ただし一方の家族に十分な収入がなく、他方の家族からの資金援助がなければ生活維持できないような状況ではどうでしょうか。そういったケースでは、別居する親族同士が一つの家計の下で生活していると言えそうです。そこで国税庁の公式見解において、次のような状況に当てはまるのであれば、生計を一にするものととらえて差し支えないとされています。
- 仕事、学校、病気療養などの都合で離れて暮らしている
- 仕事や学校の余暇には、一緒に過ごしている
- 生活費や学費、療養費の仕送りがされている
- 仕送りを受ける側に充分な収入がない
子が進学のため下宿しているケース、配偶者が単身赴任しているケース、親が老人ホームに入居しているケースなどが、その典型例です。
参考までに、過去の最高裁判決を紹介します。同居している義親子について、生計を一にする関係であるかどうかが争われた事例です。この義親子は、同居ではあるものの住民登録上の世帯は異なり、それぞれ独立した収入源を持っていました。
このケースでは納税者側が生計を別にすると主張していましたが、最高裁に退けられています。その理由は次のような生活の状況があったからです。
- 玄関、台所、風呂など、住居の主要な設備を共有している
- 互いの住居スペースを自由に行き来できる
- 水道光熱費のメーターは一つ、固定電話も一つですが、義親子間で使用量に応じた実費精算をしていない
- 住居の固定資産税について、それぞれの住居スペースに応じた清算・按分をしていたわけではない
これらを勘案すると、同居の場合はよほどのことがない限り、生計を一にすると考えて差し支えないようです。
「生計を一にする」の判断基準は、医療費控除や雑損控除、特定支出控除などで適用条件の一部になっています。また相続税や贈与税、法人税においても同様に、優遇措置の条件になっていたり、規制の対象になっていたりしています。しっかりと抑えるべき項目です。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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