第967話 これからの相続対策
2023年度税制改正大綱では、資産家の相続税対策の定番であった年間110万円の暦年贈与について持ち戻し期間の延長が盛り込まれました。一方、もう一つの課税方式である相続時精算課税には大幅な拡充がなされています。さらに贈与税の非課税特例の条件も厳格化されるなど、これまでの相続対策の在り方を大きく変える見直しが相次いでいます。新時代の相続税対策の在り方について少し考えてみましょう。
生前贈与はこれからも原則として年間110万円まで税金がかかりません。ただし死期を悟ってからの駆け込み贈与を防ぐため、今までは相続発生まで3年以内の贈与については相続財産に持ち戻して相続税が課されるルールでした。税制改正大綱では、この持ち戻しの期間を現行の3年から7年に延長しております。併せて負担軽減策として、現行制度から延長した4年分については、総額100万円までは相続財産に加算しない非課税の贈与財産としています。
これらの見直しは、2027年1月から段階的に延長していき、最終的に2031年1月に持ち戻し期間が7年となります。
数ある贈与のルールのなかでも、年間110万円の贈与はこれまで相続税対策の定番でした。しかし改正による持ち戻しの期間延長により、この110万円贈与の節税効果は半減します。対応するには持ち戻しの対象期間を考慮して、より早い生前贈与に手をつけるしかありませんが、それでも最大で受贈者一人当たり770万円の贈与が無駄に終わることになります。このように時間をかけた相続対策が無駄に終わるリスクを考えれば、資産移転の手法としては組み込めなくなり、相続対策を1から見直す必要が生じてきます。
一方で税制改正大綱では、暦年課税と対を成す「相続時精算課税」が大きくテコ入れされています。
相続時精算課税は生前に贈与した分が2500万円までは贈与税がかからないが、相続が発生した時はすべてを相続財産に持ち戻して相続税が課される仕組みです。暦年課税とは異なり完全に非課税とはならないことや使いづらさから、利用する人は暦年課税の1/10にも満たしていませんでした。
2023年改正大綱では、この相続時精算課税について、暦年課税と同額の年間110万円までの控除額を設け、非課税としました。しかもこちらの贈与は相続直前の贈与であっても持ち戻しの対象とはなりません。これまでの制度の使いづらさが解消されただけではなく、暦年課税以上に優遇された非課税枠が設けられることで、一定の要件はあるものの、相続時精算課税が今後相続税対策の王道となっていくことでしょう。
相続時精算課税を利用するその他のメリットは、税金の払いを先送りできることに加え、そもそも相続税がかからない人にとっては遺産の前渡しに使えること、賃貸物件を子供や孫に贈与することで賃貸収入を子供や孫に移すことができることなどが挙げられます。さらに土地や株式などの価格が低いときに贈与しておき、いざ相続時に価値が上昇していれば大きな節税効果を得られます。
とはいえ土地や株式の価格は下落する可能性もあるので、確実な節税策とはいえませんので注意が必要です。
しかし、相続時精算課税にも短所があり、一度選択すると2度と暦年課税には戻れないことや、贈与者と受贈者の双方に年齢要件が設けられているなど、暦年課税にはないハードルがあることは確かですが、それでも持ち戻し制限のない非課税枠が設けられた相続時精算課税が、今後暦年課税にとって代わり、相続税対策の定番となっていく可能性は高いと思われます。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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