第990話 浜田雅功さんに学ぶ資産防衛
お笑いコンビ「ダウンタウン」の浜田雅功さんとその妻で女優の小川菜摘さんが、別居しつつも婚姻関係を続けている〝卒婚〟状態であると報道されました。卒婚は近年、夫婦がストレスなく婚姻関係を続ける手法として富裕層を中心に注目されています。離婚となれば手続きの煩雑さに加え金銭的なダメージも大きく、財産分与により資産は半減し、内容次第では上乗せして税金まで取られてしまうリスクもあります。さらに夫婦間の優遇税制が活用できず日常的なコストも膨らんでしまいます。熟年離婚が増加している今、老後のライフプランの1つとして、スマートに資産防衛できる卒婚も選択肢になるのかもしれません。
芸能界きってのおしどり夫婦と思われていた浜田夫妻の別居が報じられました。浜田さんが東京・世田谷にある夫婦の自宅で暮らしている一方、小川さんは都内の高級マンションを借りて住んでいます。週刊誌では「小川さんは舞台に集中するために部屋を借りた。普段は別々に暮らしているが、記念日やお祝い事のたびに夫婦で集まっている」との芸能関係者のコメントを紹介したうえで「離婚を見据えた別居ではなく、今はやりの〝卒婚〟だろう」と報じています。
卒婚とは、戸籍上の婚姻関係は残したまま別居することにより、夫婦それぞれが干渉し合わずあたかも独身のように過ごす生活スタイルをいいます。愛情のないまま婚姻関係を続ける「仮面夫婦」や夫婦仲が険悪なまま同居する「家庭内別居」、そして夫婦生活が破綻し法律上の婚姻関係を終了させる「離婚」などとは異なり、あくまでもお互いに干渉し合わないことで円満な夫婦関係の継続を目指します。明治安田生命福祉研究所の調査によると男性の約5割、女性の約7割が将来的な卒婚に肯定的となっており、調査では「年齢層が高いほど夫婦の距離間をもちたい」と思う傾向にあり、卒婚を選択する夫婦は今後も増えていきそうだとしています。
卒婚により婚姻期間をキープできれば、精神面のみならず金銭面でもメリットが大きくなります。離婚になれば財産分与や税金により資産が大きく目減りするからです。
財産分与においては、夫婦間の所得の差が極端に大きい、育児や介護などの貢献度が一方に偏っているなどの事情は一定程度考慮されますが、原則として分与する割合は1/2です。相手側に不貞行為やハラスメントなどを主張されれば慰謝料も上乗せして支払うことになります。
また分与する財産に土地や株式が含まれていますと、譲渡所得税を上乗せして負担しなければなりません。
さらに経営者であれば、自社株の引き渡しにより会社の経営権を相手側に奪われてしまうリスクもあります。婚姻前から事業を営んでいた、あるいは相続により事業を承継したのであれば自社株は財産分与の対象から外れるものの、原則として婚姻期間中に起業した会社の自社株や事業用資産は財産分与の対象に含まれます。現預金や不動産などで財産分与が賄えなければ、離婚相手に会社の経営権を持っていかれてしまいかねません。
また離婚してしまえば、夫婦間のみで適用できる所得税上の優遇措置も活用不可となります。最大48万円を所得控除できる「配偶者控除」「配偶者特別控除」が適用不可となります。「医療費控除」も相手方の医療費を加算できなくなります。さらに自宅の所有権が財産分与の対象となった場合、居住要件を満たさなくなりますので住宅ローン控除も使えなくなってしまいます。
精神的苦痛から逃れるため金銭的な負担が増してしまうにもかかわらず、熟年離婚に踏み切る夫婦は年々増えています。厚生労働省の調査によりますと、20年以上連れ添った夫婦の離婚件数の割合は、1985年に12.3%だったものの、2021年には21.1%に膨らんでいます。パートナーの定年退職や引退をきっかけに一緒に過ごす時間が長くなった結果、相手の存在自体がストレスとなってしまっているケースも少なくありません。
パートナーと「もう顔も見たくない」と関係修復が不可能ならば離婚もいたしかたありませんが、夫婦の亀裂がそこまで至っていないのであれば、卒婚により最悪の事態を回避するという選択肢もあるでしょう。
卒婚するときに別居用不動産を用意する際、活用できる優遇税制も整備されています。それが贈与税の配偶者控除の特例です。結婚して20年以上の夫婦が対象で、住宅そのものや住宅購入資金の贈与について基礎控除込みで最大2110万円まで控除できます。夫婦間で1度きりしか使えませんが、パートナーの別居に必要な不動産を税務上お得に用意できる税制となっています。
離婚を余儀なくされれば、財産分与により資産が大きく目減りするうえ税制上の優遇措置も受けられなくなってしまいます。夫婦間に修復不可能な亀裂が生じる事態を未然に防ぐための選択肢として、卒婚を頭に入れておくのもいいのかもしれません。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
「所長の独り言」一覧はこちら
免責
本記事の内容は投稿時点での税法、会計基準、会社法その他の法令に基づき記載しています。また、読者が理解しやすいように厳密ではない解説をしている部分があります。本記事に基づく情報により実務を行う場合には、専門家に相談の上行うか、十分に内容を検討の上実行してください。当事務所との協議により実施した場合を除き、本情報の利用により損害が発生することがあっても、当事務所は一切責任を負いかねます。また、本記事を参考にして訴訟等行為に及んでも当事務所は一切関係がありませんので当事務所の名前等使用なさらぬようお願い申し上げます。