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皆様は夫婦間のお金の管理をどのようにしていますか。

 

  • 一方が家計を管理してもう一方が小遣い制
  • 夫婦それぞれ個別に家計を管理
  • 一定額のお金を出し合って、共同で家計を管理

 

 などなど世間では様々なパターンがありますが、いずれにしても一般的に「夫婦はお金を共有するもの」という認識が浸透しておりますので、家庭内の財産が「夫と妻どちらのものか」を意識する機会は少ないのではないでしょうか。ただ夫婦間のお金のやりとりにも贈与税がかかることがありますので気は抜けません。

 そもそも贈与は契約の一種で、「あげる」「もらう」といった両者の意思が合致することで成立します。そしてもらった側には財産の価格に応じて贈与税が課されます。例えば、夫婦間においても夫が「あげます」と多額の現金を差し出し、妻がそれを「もらいます」と受け取れば、贈与税がかかることになります。

 ただし、贈与税の発生条件をそのまま適用しますと、世の中の夫婦は贈与税が課され放題になって混乱してしまいますので、一定の条件を満たしていれば贈与税が発生しないようになっています。考えてみれば夫婦はいわば共同体ですから、夫婦間でお金を融通しあうのは当たり前のことです。そこで、贈与税がかからないケースとかかるケースにわけて説明していきたいと思います。

 

贈与税がかからないケース

 

①年間110万円までの贈与

夫婦間に限らずすべての贈与に適用できるのが、贈与税の基礎控除です。年間110万円までの贈与は非課税となっています。

誤解されやすい事として、この110万円枠は、受贈者一人当たりの金額であり、そもそも贈与税の納税義務者は、受贈者であることを理解してください。

 

②扶養義務に基づく生活費や教育費

夫婦間の贈与であっても、生活費や教育費として通常必要なものについては贈与税がかかりません。民法において、夫婦にはお互いの生活を支え合う「扶養義務」が課されています。そこで相続税法上も、扶養義務を全うするために行う金銭の授受について税を課すことは適当ではないとされています。

なお、国税庁の公式見解によりますと、非課税となるのは「必要な都度直接支出するもの」に限られています。そのため、実際にかかる生活費以上に渡して余った分を貯蓄に回したり、不動産や金融商品の取得に充てたりしてしまうと贈与税が課されるおそれがありますので要注意です。

 

③離婚による財産分与

離婚時の財産分与にも贈与税はかかりません。財産分与は離婚の成立によって生じる財産分与請求権に基づいて行われるものであり、贈与契約に基づき行われるものではないからです。

ただし国税庁の公式見解によれば、次のようなケースでは贈与税が課されることもあるようです。

                       

  • 分与した財産額が過大であると認められるとき
  • 贈与税の回避を目的に離婚したと認められるとき

 

④贈与を受けた認識がないとき

金銭等を受け取った側が、そもそももらったことを認識できていないのであれば、贈与税はかかりません。贈与という行為はあげる側ともらう側の意思が一致することで初めて成立しますので、双方の意思が一致していない場合には、そもそも贈与契約は成立していないことになります。典型例としては、家族の知らないところで家族名義の預金口座をつくり金銭を預け入れるケースが挙げられます。

贈与税が課されない反面、税務上においては他の税金の負担が生じるリスクがあります。例えば相続税対策のために、推定相続人に毎年110万円贈与して生前贈与対策をしていたときに、贈与自体が認められなければ、せっかくの生前対策が水泡に帰してしまいます。確実に贈与を行うためには、贈与契約書を作るなど贈与の事実を明らかにしておかなければなりません。

 

⑤贈与税の配偶者控除

居住用不動産そのものや居住用不動産の取得資金の贈与では、婚姻期間20年以上の夫婦間に限り最大2000万円を控除できます。前述の110万円までの非課税となる基礎控除との併用も可能です。ただし申告が要件となります。

 

贈与税がかかるケース

 

①配偶者名義の住宅ローン返済を肩代わりした

配偶者が契約した住宅ローンの返済をもう一方の配偶者が返済していると、返済相当額が贈与税の課税対象となります。返済を肩代わりする行為そのものが贈与に該当してしまう為です。具体例として、ローン返済は契約者である妻の口座から行っているものの、その返済額に相当する金額を夫が渡しているケースなどです。

もっとも一時的な立て替えに過ぎないときには贈与税は課税されません。やむを得ない事情があるのであれば、借用書を作成するなど貸し借りの客観的な証拠を残しておきましょう。

また夫婦間の扶養義務にのっとって肩代わりするときも贈与税はかかりません。具体例としては、配偶者が仕事をリストラされて住宅ローンを返済できなくなってしまったときに、もう一方の配偶者が肩代わりするようなケースが挙げられます。

 

②不動産の取得費負担分よりも所有割合が多い

夫婦が共有の不動産を取得するとき、持分割合と費用負担割合に差があると贈与税がかかります。例えば、登記上の所有割合が夫婦で半分ずつであるにもかかわらず、その費用が夫のみで負担されていた場合には、妻の登記上の所有割合分(50%)に相当する額について、夫から妻への贈与があったものとして贈与税が課税されます。

 

③配偶者が契約者である保険の保険金を受け取った

保険金の受け取りは、契約者(保険料負担者)、被保険者、受取人の3者の組み合わせによって税金の種類が異なります。

 

  • すべて異なるケース

契約者=夫、被保険者=父、受取人=妻のケースを考えてみましょう。父が亡くなると、妻は費用負担なく保険金を受け取れます。そこで夫から妻への贈与として贈与税の課税対象となるのです。

 

  • 契約者=被保険者

契約者=夫、被保険者=夫、受取人=妻のケースを考えますと、夫の死亡により妻が保険金を受け取っているため、相続税がかかります。

 

  • 契約者=受取人

契約者=夫、被保険者=父、受取人=夫のケースでは、契約者自身が保険金を受け取っているため本人に所得税が課されます。

 

 夫婦間の財産のやり取りについては、実際には国税当局が突き止めるのは困難なように見えますが、実際には夫婦のどちらかが亡くなって相続税申告を行う際に、過去の贈与が発覚するケースは珍しくありません。相続税の税務調査では、亡くなった人を含む一家の過去10年間にわたる預金の入出金状況が把握できます。必要な申告は欠かさないようにしましょう。

 

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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