第1048話 南野陽子さんから学ぶ離婚税制
元〝スケバン刑事〟でおなじみの南野陽子(56)さんが離婚したことが報じられました。夫婦間の離婚危機は何度も報じられてきましたが、夫(52)が業務上横領容疑で逮捕されたことが原因といわれています。
2020年に離婚した夫婦のうち、20年以上同居した「熟年離婚」の割合が21.5%に上り、統計を始めて最高となっています。南野さんの婚歴は12年ですので統計の数字には含まれませんが、56歳なら立派な熟年離婚です。
熟年離婚が若年離婚と大きく異なるのは、離婚時に財産が一定の規模になっているケースがあることと、年金を視野に入れなくてはならないことです。若年離婚に付き物の子供の養育費や、浮気などを理由とする慰謝料の問題が少ないかわりに、将来の生活費に直結する問題が浮上してきます。
まず離婚に絡んで動くお金といえば、一般に「財産分与」「慰謝料」「養育費」ですが、これらは税法上では原則として非課税扱いになります。財産分与は夫婦共有の財産から自分の取り分を得ただけであり、慰謝料は相手の不貞などによりマイナスになっていた状態がゼロに戻っただけだとされるからです。養育費については扶養義務に基づく生活費の支払に該当し、利益の享受には当たりません。
ただし、支払額が常識的に見て過大とみなされれば、その部分に贈与税が課されます。また、分与した財産が金銭ではなく不動産ならば、分与を行う側に譲渡所得税が課されます。
第990話で書いたように、最近ではダウンタウンの浜田雅功さん夫婦のように、籍はそのままに別居を選ぶ夫婦や、また籍を抜いて別居しているが友人として付き合いを続ける〝卒婚〟などもトレンド入りしています。
そもそも、家父長制の流れを汲む日本の法律は配偶者への保護が手厚いという特徴があり、特に相続税法は、法律婚の配偶者を優遇しています。その一つが相続税の配偶者控除で、仮に離婚せずに妻が夫を看取ったとしたら、1億6千万円までの遺産には相続税がかからないことになっています。さらに一緒に暮らしていた家屋も、小規模宅地等の特例を使えば、敷地の評価額は330㎡まで2割に押さえられます。これも法律婚の配偶者のみに認められた特典です。
つまり離婚したことによって遺贈で財産をもらったのなら、非課税どころか逆に2割増しで相続税を払うことになります。
さらに生命保険についても離婚後は、相続人から外れますので、保険金を受け取ったとしても相続人にのみ認められている「500万円×法定相続人の数」の非課税枠は使うことができません。
次に年金についてです。2007年4月に、離婚時の厚生年金の「合意分割」制度がスタートしました。夫婦の双方が合意していれば、婚姻期間の夫(または妻)の保険料納付実績を按分割合の限度である最大1/2まで一方に分割できる制度です。あくまでも双方の合意が原則ですが、年金を納めてきた夫が妻の要求を突っぱねていればそれで済むというものではありません。双方の合意に達しないときは、夫婦の一方が裁判所に申し立てることで裁判所が按分割合を決定することもできるからです。
さらに翌2008年には夫婦の合意すら不要な「3号分割」制度が始まっています。これは同年以降に配偶者の一方が国民年金の第3号被保険者(専業主婦など)であった期間について、厚生年金を払ってきた側の保険料記録の1/2が自動的に分割される制度です。合意分割と同時に請求することも可能で、請求されれば拒否することはまず不可能です。ただ原則として離婚から2年以内に請求しなければなりません。
なお国税庁では、離婚時の年金分割に関して原則として贈与税の課税関係は生じないことを明らかにしています。
厚生労働省によると、過去5年の年金分割制度の件数は、2017年の26,063件から2021年には34,135件にまで着実に増え、分割の8割超が女性からの請求です。また年金分割にあたっては事前に年金受取見込額などを請求して知ることができますが、この請求につきましても女性が8割以上を占めています。
熟年離婚なる言葉も定着して、離婚がすっかり一般化した昨今、夫婦間の形も多様化する中で、近い将来の熟年夫婦像を話し合っておくとともに、税金や社会保険とも上手に付き合っていってください。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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