第1069話 「税務職員配属便覧」活用法
長く続いたコロナ禍の自粛期間中、国税当局は納税者の情報を徹底的に調べ上げてきました。税務調査が全解禁となった今、そうした当局に対して、こちらは調査官の情報を何も知らずに迎え撃つというのは絶対的に不利な状況となってしまいます。
本来、税法の規定に則れば、調査官は誰が来ても同じ結果になるはずです。しかし、実際は調査官の経験やスキルによって結果は大きく変わってきます。だからこそ、どんな税務調査官が調査を実施するのか、この点をあらかじめ把握しておくかどうかで、税務調査の行方は大きく異なることになります。その確認を行う上での必須アイテムが「税務職員配属便覧」をはじめとする税務署の職員録です。
便覧で最初に目につくのは、担当する税務調査官の部署と肩書です。これだけで税務調査の方向性とその深度を大まかに把握することができます。方向性は「部署」が示し、深度は「肩書」から推測できます。税務署の様々な部署の内、例えば「情報技術専門官」とあれば、IT関係の税務調査を行うことが想定されますし、「国際税務専門官」とあれば、国際税務に強い税務調査官と考えることができます。
このほかにも知っておきたい部署として「特別国税調査官」と「内部部門」が挙げられます。「特別国税調査官」は、税務署の担当する管内で比較的規模の大きな会社を担当するセクションであり、一般の税務調査官では対応できない複雑な論点を含めた幅広い調査内容を担当します。当然、臨場する税務調査官の人数も多くなり、税務調査官の実施日数も長くなる傾向にあります。
一方、「内部部門」とは、一般的には「○○課税第一部門」など、各課税部門の第一部門を指します。ただし規模の大きな税務署では、第一部門に限らず、第二部門や第三部門も内部担当部門に該当します。このような場合には、「法人課税第二部門(消費税・印紙税担当)」といった形で、担当税目が別途併記されることが通例です。一般に内部部門は申告書の入力などを行う内勤の部署であるため税務調査に出張ることは少ないですが、必要性が生じれば現場に繰り出すことになります。通常業務が内勤なので、税務調査の経験値は低いですが、その反面、税法の知識レベルは一般の調査官よりも格段に高くなります。とりわけ源泉所得税担当や消費税担当の職員となると、非常に細かい部分まで法律を押さえていますので、調査される側は決して気を抜けない相手となります。内部部門の職員が税務調査に来る場合は、部署をよく確認して、狙われそうな税目について税理士にきちんと相談してから税務調査に構えてください。
税務署内の序列は、統括調査官→上席調査官→調査官→事務官の順で「便覧」では肩書のない職員が「事務官」となっています。上席調査官までは基本的には経験年数に応じて決まるため、肩書を見れば、その調査官の大まかな勤務年数を推測することができます。税務調査官の経験年数と税務調査能力は基本的に比例することが多く、さらに事務官であれば税務調査が甘く、上席調査官であれば厳しいというのが一般的な傾向といわれています。
なお、税務調査の予告は基本的に職位が下の職員が電話連絡をすることが通例となっています。そのため電話連絡をしてきたものが事務官だからといって「ヒラの事務官が一人で来るようだから安心」などと油断していると、経験豊富な税務調査官が同席して痛い目にあうことになるかもしれません。税務調査の事前通知を受けた際には、同席者を含め何名来るのか、さらに名前も聞いて「便覧」で肩書などを確認するのがベストでしょう。
さらに納税者による「事前調査」の深度を増すためには、「便覧」の過去数年分をみて検討することです。
税務調査官について最も知りたいのは、その調査官が歩んできた税務署内での「畑」についてです。調査畑の出身なら税務調査には強いものの法律にはあまり強くない。一方、総務的な仕事が中心な総務畑なら調査経験は不足で強く推してこないことが考えられます。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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