第586話 相続放棄の法的解釈

昭和の時代の相続は、資産の相続で、これでやっとマイホームの取得ができました。平成の時代の相続は、バブルの後始末の相続が多く、債務超過の相続が多くありました。法律的な視点での相続のリスクは債務の相続です。
債務を承継してしまった不幸はあまりにも多く存在します。例えば、ギャンブル狂いの父が死亡し、財産もなく、葬儀も行われず遺骨だけは寺に預けられた状態。ところが、父は連帯保証債務を負担していたことが後に判明。相続人は、その支払いを請求されることになってしまいます。相続を放棄したくても、その時点では相続を知った日から3カ月はとうに経過していて、できません。
そのような事案について、裁判所は、次のように相続人を救済しました。
- 被相続人に相続財産が全くないと信じ、
- 相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な場合
は、「熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当」としました。(最高裁昭和59年4月27日判決)つまり、相続放棄をするときの期限は、借金の存在を認識した時から3カ月を起算するということになります。
ただ、被相続人の車が欲しいといって名義を変えてしまったりしたなど、財産に手を付けてしまった場合は、法定単純承認の理由になってしまいます。(民法921条)
相続放棄をするのであれば、葬式費用のために預金を引き出したりできないことになります。また、被相続人の準確定申告もしてはなりません。相続放棄をしたならば、他人になるのですから、他人の所得税の申告など行うべきではないからです。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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