第628話 生命保険金が受取人固有の財産でなくなるとき
生命保険金は「受取人固有の財産」といわれます。税法では「みなし相続財産」として相続税の課税対象とはなるものの、民法では生命保険金を請求する権利は相続財産から除外され、原則として遺産分割の対象となる事はありません。保険金独自の非課税枠もあり、他の財産よりも優遇されることから、オーナー企業の後継者の納税資金や自社株対策の原資に最適といわれています。
ただし特定の相続人が生命保険金を受け取った結果、他の相続人に比べて取得財産に著しい隔たりが出てしまった場合には、この生命保険金が受取人固有の財産ではなくなる時もあります。
例えば、親が亡くなって3人の子が相続人として残されたケースで、相続財産が預金1500万円のみだったとします。この場合には、3人で500万円ずつ分配すれば円満解決できそうな気がしますが、もし仮に預金以外に長男のみ生命保険金2000万円が支払われていた場合はどうでしょうか?長男の立場なら、生命保険金は受取人固有の財産なので、もともと自分のモノであって相続財産には含まれず、遺産分割には関係ないと主張するでしょう。
しかし最高裁は、こうしたケースに対して長男にノーを突き付けています。最高裁は、原則として生命保険金は受取人固有の財産ではあるものの、「到底是認することができないほど著しいと評価すべき特段の事情」がある時には、保険金を遺産に持ち戻して分割すべきだと認定したのです。この「特段の事情」とは、保険金の額や遺産の総額に対する比率だけではなく、同居の有無や被相続人の介護などに対する貢献の度合い、各相続人の生活実態などが該当することになります。
これまでの判例によりますと、仮に金額のみを考慮して判断しますと、保険金の額が遺産総額に対して45%~50%を超えた時点でその全額がおおむね持ち戻しの対象になっています。先ほどの例によれば、預金1500万円と生命保険金2000万円で遺産総額が3500万円となり、それに占める保険金の比率は57%にもなり、持ち戻しが必要となります。結果、長男が受け取る遺産は生命保険金のみの2000万円、他の2人はそれぞれ預金750万円ずつ得ることになります。
同様に遺留分についても、受取人と他の相続人に著しい差があると認められた時には、請求対象になる可能性があります。
生命保険金は確かに受取人固有の財産として様々な場面で強みを発揮しますが、何事にも絶対はあり得ないということを肝に銘じておかなければなりません。
文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所
所長 栁沼 隆
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