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 昭和の時代の地主と借地人の関係は、借地契約は法定更新で地代の増額が難しいなど借地人の保護が過大なのに対して、地主の法的保護などは存在しませんでした。しかし、いま、事情は逆転しています。結局のところ、借地人は追い出されてしまうのです。

 地主が譲渡を承諾してくれれば、承諾料を支払うことで借地権を売却することは可能ですが、地主の承諾がなければ、裁判所に譲渡に代わる承認を求めなければなりません。しかし、そのような手続きを経てまで借地権を欲しがる買い手を見つけることは困難です。つまり、借地権は換金性に欠けるのです。

 換金化することができない資産では、借地人の生活の変化に対応することができません。親子3代が同居する昭和の時代なら、借地は子、孫へと承継されていきますが、今のような高齢化、核家族化の時代には、すでに子が居宅を取得していて親の借地を必要としません。

 親が亡くなった後には借地は地主に返還されるのにもかかわらず、その借地権は相続財産に加える必要があります。さほど価値のない地域の借地なら支障ありませんが、地価の高い都内の場合は影響が大きくなります。

 高齢な両親が借地上の建物に居住する場合は、借地を承継する場合を除き、生前に対策を講じておく必要がありますが、その方法が思いつきません。借地権と底地の一部を交換できるのであれば合理的ですが、分筆可能な土地で、地主の承諾が得られる場合に限られます。

 更地価額に対して借地権割合を乗じて計算するのが借地権価額ですが、その計算方法は、不動産鑑定理論では50年前から否定されています。底地評価額と借地権評価額を合わせれば更地価額になるような計算が成り立つのは、底地所有者が借地権を買い取る場合やその逆に限られます。

 実務においては、底地を第三者に売却しようとしても底地評価額の半額でも売れないし、借地権はそもそも売ることもできません。このような矛盾した計算式が許されるのは、実勢価額の3割といわれていた昭和40年代の路線価評価額が前提であり、借地権価額が公示価額の7割に引き上げられた時代に適合する理屈ではありません。

 時価とは取引価額をいうのですが、取引事例がない借地権と底地について時価を求める税法が作り出したおとぎ話が借地権割合なのです。

文責 仙台市で相続税に特化した税理士事務所|栁沼隆 税理士事務所

所長 栁沼  隆

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